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青山デザイン会議

インハウスデザイナーの可能性

佐々木 拓/倉本 仁/洪 恒夫/山﨑 茂

近年、企業の中でデザインやクリエイティブに対する意識が高まり、社内にクリエイティブ組織を設けたり、外部のクリエイティブディレクターと連携して仕事をする企業も出てきています。しかし、その一方で"インハウスデザイナー"の存在が見えにくくなっているようにも感じています。しかし、インハウスのデザイナーはその企業の理念をデザインで具体化できる存在。その力を仕事で発揮することはもちろん、今後はその力で社会に貢献する活動をしたり、企業を超えて何か新しいものを生み出していく、そんなこともできるのではないかと思います。

そこで、今回はインハウスデザイナーからフリーランスになり、多様な活動をする倉本仁さん、丹青社 プリンシパルクリエイティブディレクター 洪恒夫さん、そしてコクヨ プロダクトデザイナー 佐々木拓さん、コーセー 宣伝部クリエイティブディレクター 山﨑茂さんという社内外で活動を続ける3人のインハウスデザイナーのみなさんと、その可能性について話し合いました。

Photo:parade/amanagroup for BRAIN

インハウスデザイナーの役割とは

倉本:僕はNECで10年弱インハウスデザイナーとして働き、退職後はフリーランスのデザイナーとして活動して10年目になります。家電メーカーのインハウスは横の繋がりが強いため、以前から他社のデザイナーと情報共有を続けてきました。彼らといろいろ話す中で、あることに気づいたんです。各メーカーにいる数百人のデザイナーのうち、突出した才能を持つデザイナーは数人しかいないのではないかと。

僕らはそういった人のことを「エース」と呼んでいますが、彼らが社内デザインのチェンジメーカーとなって新しいデザイントレンドを生み出し、他の多くのデザイナーがその流れをフォローしてデザインの大きな潮流を作るというような構造が見えてきたんです。デザインにおけるチェンジメーカー的な存在が各企業にいるのに、その優秀な存在が世の中にはなかなか伝わらない。もっとみんなに知ってほしいと思い、企業を超えて各社のエースが集う展覧会を企画しました。

洪:確かに、マーケットにもイノベーターとアーリーアダプターがいるという図式があるように、企業のデザイン部門にもイノベーターがいますよね。その展覧会は、各企業のイノベーターが顔を揃えるイメージですね。興味深いです。

山﨑:倉本さんは縦横無尽に活動されている印象ですが、それはフリーランスだからこそ動けていると思いますか?NECにいても同じことができたと思いますか?

倉本:いえ、NECにいたら無理だったと思います。今回の展覧会の企画でも、大企業のコンプライアンスの厳しさを忘れていて、宣伝部を必ず通さないといけない、事前に必ずチェックが必要など、厳格な部分をあらためて思い出しました。

洪:インハウスデザイナーはクライアント側にいて、クライアントの事業をサポートするものが多く、そこには守秘的な制約がついてまわります。特にイノベーティブなデザインで、これまでにないものであればなおさら公開できないものです。雇用されているという立場もあり、「雇用時間を使ってなぜこれをやっているの?」という話も起きかねません。

山﨑:僕は毎年、複数の企業のパッケージデザイナーやフリーランスデザイナーによる展覧会「パッケージ幸福論」に参加しています。インハウスデザイナーは企業の利益追求を前提として働いているので、自分自身がなぜデザインをしているのかという、根本を忘れてしまうことがあります。この展覧会では毎年、あるテーマのもと、みなが作品を制作するので、デザイナーとしての初心を思い出すよい機会になっています。

洪:業界を横断する展覧会の話を聞いて思ったことは、ディレクターやリーダーという旗振り役の存在が大切ということです。斬新な発想があっても、そこに力強いディレクションがないと形になりません。これは企業も同じで、企業のクリエイティブの力を上げるのは旗を振って、インハウスデザイナーを引っ張って着地させる人間を社内にどれだけ作れるかが、組織力や企業力において影響が大きいと思います。

倉本:カルロス・ゴーンさんが日産のトップになり、デザイン部本部長に中村史郎さんが就任したときがまさにそうでしたね。強い権限を与えられて、中村さんがデザイン部門をディレクションしたことで、インハウスのメンバー自体は変わってないのにデザインのクオリティが急に上がりました。船頭が変わるだけでこんなに変わるんだと驚いたことを覚えています。

洪:ルーティンの仕事を担うリーダーと、イノベーティブなものを作り出すときのリーダーは、同じリーダーでも求められる能力が全く違うということでしょうね。

山﨑:リーダーはメンバーに方向性を提示して見せることに加えて、「チームづくり」も重要な仕事だと感じています。コーセーには、研究からデザイン、生産、販売まで全ての専門家が社内にいます。自ら動いて働きかければ新しい可能性が拡がっています。僕自身今、売場の人たちにアプローチして彼らを積極的に巻き込む試みに力を入れています。どういう座組みにするかで局面が変わりますよね。

洪:丹青社の仕事は内装・展示の造作に加え、映像やグラフィックデザインなどもトータルにまとめるので、外部のグラフィック専門デザイナーや映像のプロデューサー、ディレクターと互いに生かしあうチームづくりをしてこそ、いい空間を作ることができます。優秀な外部ブレーンに能力を出し切ってもらう力量を持っていないと宝の持ち腐れになる。そのためにはディレクターはもちろん、さまざまなリソースを取り込むことができる企業としてのプラットフォームのようなものも必要だと思います。

佐々木:僕はまだマネジメントをする立場ではありませんが、正直なことを言えば、上の立場の人が少し適当なほうがやりやすいですね(笑)。一般的によいとされるマネジメントがよいクリエイティブを生み出すとは言えないと思います。ある程度の適当さがあるからこそ、新しいチームができて、新しい発想が受け入れられるのだと感じています。

山﨑:それはおそらく押さえるべきところを押さえて、あとは柔軟にやってよいという風土があるからですね。コーセーでは、プロダクトも広告も社長に直接決裁を仰ぎます。経営層は、インハウスが中心になって企業としての未来を見せてほしい、新たな製品を出すときもプロダクト単体の話ではなく、全体のコミュニケーションや売り方までトータルで提案してほしい、と思っているのではないかと感じます。でも、現実的にはそこに応えられていないというジレンマがありますね。

倉本:それはデザイン部内の課題ですか?

山﨑:プロダクトと宣伝が別組織の動きで、トータルでの提案が難しいという現状がありますね。それこそ強力なイノベーターが現れたら局面は変わると思います。実際に、海外のクリエイターとの協働では、プロダクトから売場までを横断したディレクションができているので、決してできないわけではないと思っています。同じように、インハウスの自分たちも全体をディレクションしてみたいという気持ちがありますね。

洪:日本は分業化が進み過ぎましたよね。小さな組織の権限者がたくさんいて、権限者同士が自分の範囲だけでモノを語ることが多く、隣のことと相いれません。引き目で見て「融合させる」という発想がなかなか出にくい組織になっていると感じます。海外のクリエイティブは違って、特に建築は総合芸術と言われるように、建物からインテリアまで総合的にデザインしますね。

佐々木:利益のために分業化されて、効率的に仕事をするという環境ですね。でも、新しいプロジェクトがはじまるときは、色々な専門家が会社にいるので、分業ではなく横断的にメンバーをアサインすると、面白いチームができると感じるのですが。

洪:丹青社は今年、事業部を横断することを目的に、事業部とは別にクリエイティブ局を新設しました。リソースはあるのに、事業部という縦のフレームがあるがゆえに、やりにくいことが出てきてしまう。それを解決する新しい試みです。その一方で、会社の中で「全部を変えてしまうのはダメ」と言っています。企業は、各専門の部署に屋台骨を支えるルーティンの仕事があってこそ。専門力があるからこそ高品質なアウトプットをつくることもができるわけで、それは企業としては大切な仕事です。どちらかだけに偏るのは危険だと感じています ...

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