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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

ARを使って過去と「いま」をつなぐカナダAGOの展覧会

楓セビル

カナダ・トロントの美術館「アート・ギャラリー・オブ・オンタリオ」(AGO)で、2018年4月まで開催されている「ReBlink」展。デジタル・アーティストであるAlex Mayhew(写真右下)が、ARを使った作品を制作した。

数百年前に描かれた名画の中の人物が、美術館を訪れた人に突然微笑みかけたり、手の中の地球儀を回し出したり、セルフィースティックを取り出して写真を撮り始めたら、鑑賞者はさぞかし驚くだろう。そして、普通ならほんの数秒を過ごすだけの、その絵画に釘付けになるに違いない。そんな展覧会が、ニューヨークから小一時間で飛べるカナダ・トロントで行われている。トロントの誇る美術館「アート・ギャラリー・オブ・オンタリオ」(以降 AGO)が今年6月から開催している「ReBlink」がそれだ。

過去を通して現代を見る試み

AGOの「ReBlink」は、名画と鑑賞者の間の双方向コミュニケーションを、AR(拡張現実)を使って行っている。ここ数年、米国の若者の間ではARやVR(Virtual Reality:仮想現実)が流行っているが、ほとんどが主にゲームやエンターテインメントに活用されるに過ぎなかった。「ReBlink」は、その慣習を破って、美術の世界にARを取り入れた、世界初の画期的な試みとして注目されている。

この展覧会を訪れた人は、まず、入り口でiOSかアンドロイドのスマートフォン、またはタブレットに「ReBlink」のアプリをダウンロードする。こうした機器を持ち合わせていない人には、美術館がiPadを貸してくれる。アプリをダウンロードした機器を持って展示会場に入り、マークのある絵画の前でスマートフォンかタブレットをかざすと、2次元の絵画がたちまち3次元の映像になり、さまざまな動きを見せ始める。

例えば、17世紀の画家Frans Halsが描いたポートレートは、スマートフォンを持った手を額縁の外に差し出し、観客の写真を撮り始める。また、20世紀初頭に活躍したフランスの画家Jean de Gaigneronが描いたイタリアの公爵夫人ルイーザ・カサッティのポートレートは、突然セルフィースティックを突き出し、自分の顔を撮影し始める。常に話題の中心になりたがったという公爵夫人の人柄を茶化している。

多くのAR仕掛けの絵画の中で、最も話題になっているのは、19世紀から20世紀に生きたカナダの画家George Andrew Reidが描いた「Drawing Lots」という絵画である。オリジナルでは、数人の少年が思い思いの姿勢でデッサンを楽しんでいるものだが、「ReBlink」を通して見ると、少年たちが手に持っているスケッチブックはスマートフォンに変わっている。

寝そべったり、木に登ったり、額縁に乗ったりして、スマートフォンを楽しんでいるのだ。また、少年たちを取り巻いていた長閑な田園風景は、黒煙を吐いて走り過ぎる自動車や、青い空を横切るジェット機に変わっている。「過去を通して現代を見る試み」と制作者はいう。

名画の中に見る過去と、ARが作り出す現在とをミックスした試みは、他にもいくつかある。オランダの画家Comelius Krieghoffが描いた「Village Scene in Winter」は、煙突から煙を吐く工場地帯の雪景色を描いたものだが、鑑賞者がその絵にスマートフォンやiPadを向けると、突然、防護服を着た男性が絵画の前に飛び出してくる。

「危険です、近寄らないでください」と鑑賞者に警告する。「ほとんどの人が、一瞬、一歩後ろに下がりますよ」と、AGOのPR担当者カーリー・マガは笑いながらいう ...

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