IDEA AND CREATIVITY
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青山デザイン会議

地域と一緒に長く歩む クリエイターの関わり方

地方創生という言葉が広く浸透したこの3年。観光PR、ふるさと納税、移住など、さまざまな形で"地域"への注目が続いています。また広告会社に限らず、最近ではさまざまなジャンルの企業が地方創成事業に取り組み始めています。しかし、そこにはまだまだ課題も多く見られます。東京などから施策を持っていく人たちと地域の人たちとのコミュニケーション、動画など人気の手法に頼ってしまいがちになったり、うまくいったにも関わらず1年で終了してしまったり――。コミュニケーションに携わる多くの人が「地域」に携わり始めている今だからこそ、あらためて見直しておくべきことがあるように感じています。

そこで今回の青山デザイン会議では「地域と長く歩く」をテーマに、マーケターである一方、地方創生アドバイザーとしても活動する加形拓也さん、「地域と写真」をキーワードに写真によるまちづくりや活動を進める写真家 MOTOKOさん、そして「ローカルをクリエイティブの力でPOPにしていく」ことを目標に、さまざまな地域のクリエイティブに携わるクリエイティブディレクター 田中淳一さんの3人にお話をいただきました。

Photo:parade/amanagroup for BRAIN

シビックプライドをいかに構築するか

MOTOKO:私は近年、地域コミュニティの魅力を新たに発掘し、写真によって発信する「ローカルフォト」という活動を行っています。この活動を始めたきっかけの一つは、スマートフォンの出現です。今はスマホで簡単に写真を撮れてしまうので、カメラを持たない人が増えていますが、私は「カメラだからこそできることがある」と思っています。

活動の目的は、その土地に住む人がカメラを持って、地元にある「宝物」を探してもらうこと。「写真」が重要なコミュニケーションツールとなり、その土地の魅力を発信できます。これまでに、小豆島に住む女性7人が島の魅力を撮影して発信する「小豆島カメラ」やカメラを通して滋賀県長浜町を元気にする「長浜ローカルフォトアカデミー」などで展開しています。

田中:いろいろな地域に行って思うのは、土地の人たちは地元の資源に気づいていないこと。加えて「いかに当事者意識を盛り上げるか」が重要なポイントになります。MOTOKOさんはその点、どのように取り組んでいますか?

MOTOKO:これまでの活動から私が必要だと感じたのは、その土地に住む人たちが「拍手をもらえる場所」をつくることです。小豆島カメラでは、東京や大阪でのギャラリーでの作品展示やトークイベントを行ったり、雑誌に写真を載せてもらったり、彼らが発言する場所で「拍手をもらえる舞台づくり」をつくることに力を入れてきました。それができると、人の気持ちはグッと動きます。

田中:僕は以前、広告会社でCMを制作していましたが、2年前に独立しました。そして、自分の会社名を「ローカルを、クリエイティブで時代のポップス(人気もの)にしていく」という思いを込めて「POPS」にしました。今は陽が当たっていなくても、潜在能力のある地域に関わることで、その土地を人気者に、そして元気にしていきたいと思ったんです。

加形:田中さんはなぜ地域に関わる仕事をしていこうと考えたのですか?

田中:一番のきっかけは、地元宮崎での口蹄疫です。当時の僕は、夜中まで撮影や編集をしている毎日でした。そんなとき、地元の友達が防護服を着て、車に消毒液をかけている様子を見て、「広告は社会の窓」と言われるけれど、本当にそうなのだろうかと疑問を抱くようになりました。その後、三陸鉄道でドラえもんやミッフィーが手を繋いだイラストの電車「手をつな号」を走らせるプロジェクトを担当したことも大きかったです。

仮設テントの前で電車を楽しみに待ち、手を振ってくれる親子を見たときに「クリエイティブにしかできないこと、そのニーズは地方にあるんじゃないか」と思ったんです。実際にいろいろな地域に携わるようになると、地元に自信を持てなくなっている人に多く出会いました。今は彼らのモチベーションを引き上げることが僕らの大事な役割だと思っています。

MOTOKO:自分たちの地域に自信を持ってもらう。シビックプライドですね。まさにそこからやらないと始まりません。

加形:地域で熱い志を持って活動している方はたくさんいます。でも、その熱を地域全体に拡げるのに苦労されている方も多い。僕は内閣府の「地方創生人材派遣」という制度で富山県上市町という町の参与(アドバイザー)として派遣されています。普段は東京の民間企業のマーケティングサポートをしているのですが、今は自分の時間の2割を町で過ごし、町への移住促進や産業・観光振興のお手伝いをしています。

例えば上市町の人口。いまは2万人強ですが、30年後には5000人ほど減少するという推計があります。初めて上市町に行った頃、役場の方に「1年で何家族移住してもらえば、人口減少の課題は解決しますか?」と聞くと、すぐには答えが出てきませんでした。東京で定期的に「移住セミナー」をやっていたのですが、具体的な目標数字が見えていなかったんですね。5000人、と言われるととてつもない数に思えますが、具体的に計算してみると、2万人を維持するためには、まずは1年に10家族に移住してもらうことを目標にしていけば軌道に乗りそうだ、ということがわかりました。

では、10家族に移住してもらうには、何家族に試しに町に来てもらうか、試しに町に来てもらうためには何家族に興味を持ってもらえばいいか、ここまで考えて初めてクリエイティブのアイデアを出す意味が出てきます。

自治体の仕事は、3年は続けたい

田中:地域の仕事をすると、よく言われるのが「地域ブランド調査の順位を上げたい」「動画の再生回数を何万回以上にしたい」ということ。ただ、数字だけでなく質も合わせて考えないと難しいのが現実です。再生回数が目標に達したとしても、見ている人が単に面白動画に興味がある人なのか、地域に興味ある人なのか、そこの質を大事にしましょうと話しています。

加形:数字に「ぬくもり」が出てくるところまで話さないとダメですよね。目標が「1年に50人の移住」と言うだけではまだ足りなくて、例えば小さい子どもが1人いる家族だったら何家族来てもらえればいいのか、だとするとお父さんはどこで働くのか?お母さんは?と細かく考えていくと、東京から富山まで移住してもらうのは並大抵のことではないと初めて気づきます。

MOTOKO:小豆島の場合、2013年の瀬戸内国際芸術祭以降、年間移住者が300人を超えました。そして、カフェやWebメディアなど独自のカルチャーも生まれました。そんなうねりの中で生まれた小豆島カメラは、まちの発信に貢献できたのでは、と思います。小豆島カメラのチームが写真を撮って発信することで、「美味しくて楽しくてリラックスできるところに行きたい」という、多くの人の本能的な欲を満たすことができたからです。

移住を決める大きな理由は、そこに住んでいる人が魅力的かどうか。そこには見た目も大事で、小豆島カメラではTシャツなどはきちんとデザインしています。東京からIターンで移住した三村ひかりさんが今、島にとって象徴的な人で、彼女が経営しているカフェが移住の窓口になっています。そういう魅力的な人が1人地域にいるだけでミラクルは起こります。

田中:何かをつくるだけではなく、多くの人に届きやすくなるプラットフォームのようなものをクリエイターが設けてあげることで、地域の人たちも自然に変わっていくことができるのかもしれないですね。

加形:地域の方たちにアイデアがない、ということは全くなくて、資源を生かすアイデアはある。ただしアイデアの良さに確信が持てなかったり、地元の人間関係がこじれていたりして進まなくなっていることも多い。外から来た僕らが長い時間を共に過ごして「あの資源はやっぱり魅力がある。やり方を変えてもう1回がんばりましょう」と言い続けて伴走していくことが大事です。

田中:僕は自治体の仕事をするときに「3年はやらせてほしい」とお願いします。期間は基本的に1年ですが、3年続けないとなかなか変わりません。2015年に刊行した写真集『すごい!鳥取市 100 SUGO!BOOK』の構想は1年目にありましたが、実現できたのは2年目。鳥取のみなさんは自分が主役になった写真集ができて、それが全国の書店に並んだことがうれしかったようです。

MOTOKO:この写真集は対象が鳥取というよりも、人の集合写真で、これに載った人はまさにシビックプライドを持つようになる。そこがポイントだと思いました。田んぼや海、魚介類は地域のどこにでもありますが、この人たちはオンリーワンの存在。これだけたくさんの人間のパワーがあると、行ってみたくなるはずです。

田中:撮影した浅田政志さんは市民が出した100個のネタを読んで、演出を考えたのですが、そうすると地域の人たちが当たり前に思っていた風景の価値に気づき、前向きに変化したんです。写真集の講演で浅田さんと学校に行って話したところ、「デザインで地域に関わりたい」という学生も出てきて、副次的に人が感化されていくのが面白かったですね。

    MOTOKO'S WORKS

    7人の女性のチームからスタートした「小豆島カメラ」。

    滋賀県長浜市にて開催している「長浜ローカルフォトアカデミー」。

    下田を『写真のまち』にすることを目的に活動した「下田写真部」。

    KURURI のアルバム「TOWER OF MUSIC LOVER」。MOTOKOさんが撮影した写真が、京都タワーのイメージを大きく変えた。

    真鶴半島を美術館に見立てて、地元の人、移住者のストーリーや、そこでものづくりをする人たちの活動を発信する「真鶴イトナミ美術館」の活動。

    MOTOKOさんが地域に関わるようになったきっかけの一つでもある滋賀県の農家の人たちを撮影した「田園ドリーム」。

手法に陥らず、目的にあった施策を

田中:僕は北海道から沖縄の小さい島まで行きますが、地域ごとに違った本音があると感じます ...

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