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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

あらためて見直される広告賞の意義

楓セビル

ADCのDIGITAL GOLD CUBEを受賞した「Back to Life in VR/Phomeleosaurus & Giraffatitan」。VRを使い、博物館の恐竜が次々と生き返る臨場感あふれる体験を提供した。制作はGoogle Creative Labほか。クライアントはGoogle Art & Culture.

再考される広告賞参加

この原稿を書いている今から1週間後には、世界の広告業界の人たちが待ち焦がれる「カンヌ・ライオンズ・インターナショナル・フェスティバル・オブ・クリエイティビティ」(以後 カンヌライオンズ)が開催される。

今年のはじめ、最大の広告会社グループWPPのCEO Martin Sorrellは、広告賞、特にカンヌライオンズへの参加とエントリー数を制限するようにというメモを社内に流したと言われている(『Ad Age』誌)。ちなみに、カンヌライオンズに社員一人を送る費用は8000~1万ドル。社員の多い会社では、エントリーフィーも膨大な費用になる。

世界中に広告やマーケティングを対象とした賞がいくつあるのか、正確な数字はわからないが、おそらく数多の賞が存在しているだろう。メジャーな賞の多くは米国、あるいは英国やドイツのようなヨーロッパ諸国で行なわれており、最近では東南アジアにもいくつかの有名な賞がある。規模の小さい広告賞に至っては、世界中のさまざまな国、都市に存在し、それなりにビジネスを営んでいる。

言うまでもなく、それはアワード・ビジネスの利益が非常に大きいからだ。最も大きい広告賞であるカンヌライオンズを運営する「Ascential」はIPOに上場し、そのため懐具合が公開されることになったが、昨年は30%の収入増があったと報告されている。

参加費は5%、エントリー費は8%のアップ、加えてこの3年間で立ち上げた「ヘルス」「イノベーション」「エンターテイメント」の3つのサブ・フェスティバルからも800万ドルの収入増をあげていると、『Ad Age』誌は報じている。「カンヌライオンズに限らず、広告賞ビジネスは儲けの大きいビジネスだ」と、かつてクリオを経営し、現在はOne Showに所属しているトTony Gulisanoは言う。

その一方、世界の広告界はさまざまな理由で、ここ数年、不況に見舞われている。メディアから広告会社へのリベート問題でより厳しくなったメディア料金、主要なマーケティング会社のマーケティング費のカット、増加するインハウスでの制作、IT会社との競合などがその原因だ。そこで、この2、3年前から、ホールディングカンパニーや大手の広告会社の経営者たちは、カンヌライオンズやその他の広告賞に対して、再考を余儀なくされているのだ。

WPPだけでなく、オムニコム、ピュブリシスも、社員のカンヌライオンズやその他の広告賞への参加、エントリーを制限する意向を示している。WPP、オムニコム、ピュブリシス、インターパブリック、電通のホールディングカンパニー5社の2016年度の四半期最後の収入成長率は1.7%と低く、しかもこの下降線は今後も続くものと見られている今、当然の考慮だろう。「経済的低迷時には、広告会社の幹部はカンヌライオンズやその他の広告賞への参加やエントリー費により厳しくなる。賞の効果、ROI、権威と評判なども検討される」と、One ShowのGulisano。

クリエイティブにとっての広告賞

こういった経営者の努力にもかかわらず、広告賞への参加は年々増えている。広告賞は、広告会社、クリエイティブ、クライアントにとって、どんな意味があるのか?

JWTのクリエイティブ・ディレクターで、多くの賞を受賞しているSarah Berkleyは、「広告賞は、卓越したアイデアが重んじられ、認められ、祝福されることの実証。受賞作品はクライアントやヘッドハンターや、自分が一緒に仕事している仲間から認められるための一つのツール」と話す。

ブルックリンにあるデザインスタジオ、Hunter Gathererの創始者兼デザイナーのTodd St. Johnは、今年、ADC賞の審査員を務めたが、「デザインに与えられる賞は、必ずしも今実際に社会で見るものを代表してはいないが、賞を受けることで、さまざまな人との出会いが持てる。こういう機会がないと出会えない、いろいろな経験もできる。それが広告賞受賞のメリット」と答えてくれた。

R/GAの副会長兼グローバル・チーフ・クリエイティブ Nick Lawは、「広告賞が存在するのは2つの理由から。一つは、優れた仕事がより広範囲に鑑賞されること。もう一つは、広告業界は他のさまざまな業界の影響で、大きく変わっていることを示してくれること」と『Fast Company』誌で語っている ...

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