ファッションブランドKENZOの新しい香水『KENZO WORLD』のプロモーションビデオがYouTubeで600万再生回数を越えている。2年前に公開されたマリオットホテルの『Two Bellmen』がいまだにマディソン・アベニューの井戸端会議の話題に登場する。ブランデッド・エンターテインメント(以後BE)と呼ばれる新しいマーケティング手法から生まれた映像である。
BEの誕生は、2001年、BMWが『TheHire』というタイトルの映像シリーズを発表した時だと言われている。約10分のショートムービーで、ハリウッド・スター、クライヴ・オーウェンが演じる、雇われドライバーがさまざまな性能とタイプのBMWを駆って、配達を頼まれた物、または人物を特定の場所に届けるアクションムービーである。2001年の4月に発表されたシリーズはたちまち拡散されただけでなく、2002年、カンヌ国際広告祭でグランプリを受賞した。それにより、BMWの売上は前年より上昇したと伝えられている。BEの華やかな誕生である。
ブランデッド・エンターテインメントの定義
『The Hire』の成功は、米国広告界にこのマーケティング手法を取り入れる広告主を急増させた。だが『The Hire』に匹敵する成功を成し遂げた作品は、それから12年後に登場した『The Beauty Inside』まで待たねばならない。クリエイティブ・ブティックとして知られるPereira OdellのCEO兼CCOのP.J.Pereira の手になるSFミステリー作品で、ブランドはインテルと東芝。
2013年カンヌ国際広告祭グランプリを獲得し、BEの決定版となった。PJは、この作品を作った動機を「もうテレビCMの時代は終わった。CMは、消費者が楽しんでいるエンターテインメントを遠慮会釈なく中断する。一方、BEは、消費者が好きな時に、好きな方法で楽しめる。BEの時代だと思った」と語る。
とはいえ、BEを定義するのは、なかなか難しい。世界の知恵を集めているWikipediaでさえ「…ブランデッド・コンテンツ、またはブランデッド・アドバタイズメントとも呼ばれ、エンターテインメントを軸としたコンテント・マーケティングの一種」と、漠然とした定義を行っている。そのためか、BEをプロダクト・プレイメントと勘違いするマーケターも多い。「既存のエンターテインメントの中にブランドが登場するだけでは、BEとは言えない。
また、長々とブランドの特性やメリットを語るメッセージもCMの域を出ない」と、Adweek誌は書いている。BEであるためには、ブランドの核となる価値やメリットを中心としたオリジナルなストーリーテリングである必要がある。「BEとCMの間の境界線が次第に薄くなってきているのは事実だが、BEはCMによくあるように、露骨に販売意欲を打ち出しているものは少ない。ミレニアルたちに受けるのはそのためだろう」と、P&GオールウェイズのLike A Girl制作者、レオ・バーネット・カナダのCEOジュディ・ジョンは言う。
『Campaign』誌が創設したBE専門賞
カンヌ、OneShow、D&ADなどの広告賞も、この数年、BEカテゴリーを設けて賞を与えているが、BEだけに絞った賞を設けているのは英国の広告専門誌『Campaign』と『PRWeek』が協賛している「ブランド・フィルムフェスティバル」(以後BFF)が最初で唯一だろう。
この賞は昨年から始まったもので、今年は第2回目となる受賞式をロンドンとニューヨークで行った。世界各国から数百本の作品が集ったそうだが、その中から30本ほどのBEが選ばれて受賞。以下に受賞作品の中から話題の作品4本を選んで紹介したい。
BMW
『The Escape』
BEの元祖とも言うべき『The Hire』の続編『The Escape』。主演は前と同じクライヴ・オーエン。
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