ミネソタ州ミネアポリスの住人Ann Bauerは、数冊の本を出版している作家である。同時に広告会社のフリーランサー・コンサルタントとしても働いている。彼女の日課は、広告会社で働く同僚とは違って、かなり柔軟だ。朝食前の愛犬との散歩、オフイスで待つチームやクライアントとのテレカンファレンス、その間にスポーツジムでのエクササイズや読書をする時もある。だが、1日の大部分は、新しい本のアイデアを考えたり、執筆する時間にあてられる。
現在、50歳のBauerは、ミネアポリスの広告会社Olsonのアソシエイト・クリエイティブ・ディレクターとして働いていたが、4年前に3冊目の小説を出版したのをきっかけにストラテジストとしてフリーランサーになった。「いまの生活は信じられないくらい素晴らしい。自由な時間、前より高い収入、仕事を通して知り合える素晴らしい人たち。最もうれしいのは、自分にとって大切なことができる充分な時間があること」と、Bauerはミネソタのローカル新聞『Star Tribune』に語っている。
こうしたフリーランサーを、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(以後HBR)は"スーパーテンプ(Supertemp)"と呼ぶ。"テンプ"とはテンポラリー(Temporary)の略で、臨時雇用者を意味している。いま、米国では、こういったアップスケールのフリーランサーが、さまざまな業界で活躍していると、HBRは報告している。
彼らの多くはどこかの会社で高い実績を上げた経歴を持っているか、またはBauerのように自分の好きな分野で名声を上げた後、フリーランスのコンサルタントやストラテジストとなり、「時には前よりよい収入を享受する」(HBR)といった人たちだ。
広告業界にも、こういったスーパーテンプが何人もいる。かつてGoodby Silverstein & Partners(以降GS&P)のパートナー、後にニューヨーク・オフイスのCEOとして活躍したChristian Haasもその一人だ。
Christian Haasの経歴はアドマンとして一流である。1996年にGS&Pに参加する前、Organicのサンフランシスコ・オフイスのグループ・クリエイティブ・ディレクターとして7年間勤務。その後、デジタル面で多少遅れを取っていたGS&Pのデジタル部門強化のためにパートナーとして着任。GS&Pでの活躍を認められて、2010年『AdAge』クリエイティビティ別冊の2010年トップ・クリエイティブ50に選ばれている。
2012年、GS&Pのニューヨーク支社設立のためのCEOとしてニューヨークに移住し、スプリント、HP、GE、全米乳飲料加工業者連盟「GotMilk?」、Ebayなどのアカウントを扱った。
広告界では知らぬものがいない彼が2014年、突然GS&Pを辞職することを発表した。『AdAge』に語った理由は、「何か新しいことをしたいから」。それから3年、「それは見つかったのか?」という筆者の質問に対して、彼はこう答えている。
「見つけたと思う。辞めた時、自分が求めているものが何なのかわからなかった。それまでタイプこそ違え、ずっと広告会社で働いてきた。辞めた時、しばらくぶらぶらしながら何か新しいことを探そうと思っていた。が、2週間もしないうちに、友人からオグルヴィの仕事を手伝ってほしいと頼まれた。その仕事は9カ月も続いた。オグルヴィの仕事が終わった時、かつてクライアントだったグーグルから電話があり、フリーランスの仕事をオファーされた。クライアント側の仕事には、興味がなかったが、グーグルの仕事は面白いと思って引き受けた。新製品をマーケットに出すための戦略をつくっている」とHaasは笑う。
フリーランスの仕事と広告会社の仕事の違いを、彼はこう説明する。
「広告会社のクリエイティブの仕事は長時間に渡る過酷なもの。彼らが広告会社に入るのは、誰よりもよい仕事をしたいという情熱のためだけだ。が、そうやって働いて広告会社の幹部になる。すると事態が変わる。まず、社内の政治的な動きに神経を使うようになる。キャリアが心配になる。アカウントを失うのではないかと不安になる。フリーランサーにはこういった心配が一切ない。いい仕事をし、依頼された目的を完璧に果たすことだけが重要になる。多くのフリーランサーは、広告会社に働いていた時より、よい仕事ができるようになる。優秀なクリエイティブが広告会社を辞めてフリーランサーになるのはそのためだ」。
変わるフリーランサー、団塊からミレニアルへ
Haasの言うように、広告会社を辞めるアドマンの多くは主に管理職にあるシニアだ。そのため、つい最近まで、フリーランサーとして活躍している人の多くは40代、50代であった ...