IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

デザインの見方

時代と世界観を深く象徴する無機質な軽さ―攻殻機動隊「笑い男」マーク

中村至男

01 「笑い男」マーク
○AD/ポール・ニコルソン

02 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」より
© 2011 士郎正宗・Production I.G

このデザインを見たときに、すごく嫉妬を感じたんですね、「くやしい!これは僕がやるべきだ!」って(笑)。そのくらい特別な印象を受けました。

「攻殻機動隊」を初めて知ったのは、1996年頃だったと思います。僕がPlayStationの「I・Q」というゲームソフトを作っていたとき、隣の部屋でゲーム版「攻殻機動隊」が作られていて、よくのぞき見ていたことから、このシリーズを知りました。

「攻殻機動隊」は士郎正宗さんによるサイバーパンク漫画で、映画「マトリックス」の元ネタになったことで有名ですが、95年に押井守監督により映画化され、2002年からテレビアニメ「STANDALONE COMPLEX」として放送されました。科学が発達した近未来の日本を舞台に、サイボーグ犯罪やサイバーテロを扱う公安部隊を描いた物語です。

その世界は、脳の神経に直接デバイスを接続して、人そのものが直接ネットにアクセスする世界。今回取り上げるこの「笑い男」のデザインは、その劇中で起こる「笑い男事件」と呼ばれるサイバーテロを象徴するマークです。この事件、ある日、テレビの生中継に拳銃で男性を脅しながら犯人が乱入し、何かのメッセージを伝えようとすることから始まるのですが、居合わせた群衆や視聴者には、犯人の顔にこの「笑い男」マークがぺったり張りついていて顔が見えない。ネットを通じて、すべての人々の脳やインフラがハッキングされ、視覚や記憶すらも上書きされてしまうのです。目の前にいるのに、映っているのに、犯人の本当の顔を誰も見ることができない、そんな恐ろしい状況が生まれます。その後、模倣犯の発生や集団心理現象説など、このマークをシンボルに大きな社会問題となっていきます。もちろん、劇の中のことです。

あと51%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

デザインの見方の記事一覧

デザインの見方の記事一覧をみる

おすすめの連載

特集・連載一覧をみる
ブレーンTopへ戻る