「なんでだろう」から始まるグラフィックデザイン
私の母はイギリス人、父はスリランカ人で、名古屋にあった当時の実家は、さまざまな文化が入り交じった資料館のような空間でした。母は英字新聞社の美術記者として働いていて、私の部屋は母の書斎も兼ねていました。
02 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」より
© 2011 士郎正宗・Production I.G
このデザインを見たときに、すごく嫉妬を感じたんですね、「くやしい!これは僕がやるべきだ!」って(笑)。そのくらい特別な印象を受けました。
「攻殻機動隊」を初めて知ったのは、1996年頃だったと思います。僕がPlayStationの「I・Q」というゲームソフトを作っていたとき、隣の部屋でゲーム版「攻殻機動隊」が作られていて、よくのぞき見ていたことから、このシリーズを知りました。
「攻殻機動隊」は士郎正宗さんによるサイバーパンク漫画で、映画「マトリックス」の元ネタになったことで有名ですが、95年に押井守監督により映画化され、2002年からテレビアニメ「STANDALONE COMPLEX」として放送されました。科学が発達した近未来の日本を舞台に、サイボーグ犯罪やサイバーテロを扱う公安部隊を描いた物語です。
その世界は、脳の神経に直接デバイスを接続して、人そのものが直接ネットにアクセスする世界。今回取り上げるこの「笑い男」のデザインは、その劇中で起こる「笑い男事件」と呼ばれるサイバーテロを象徴するマークです。この事件、ある日、テレビの生中継に拳銃で男性を脅しながら犯人が乱入し、何かのメッセージを伝えようとすることから始まるのですが、居合わせた群衆や視聴者には、犯人の顔にこの「笑い男」マークがぺったり張りついていて顔が見えない。ネットを通じて、すべての人々の脳やインフラがハッキングされ、視覚や記憶すらも上書きされてしまうのです。目の前にいるのに、映っているのに、犯人の本当の顔を誰も見ることができない、そんな恐ろしい状況が生まれます。その後、模倣犯の発生や集団心理現象説など、このマークをシンボルに大きな社会問題となっていきます。もちろん、劇の中のことです。