マーケティング業務のオートメーション化が進む中、Web解析市場にもその流れが及んでいる。サードパーティートラスト代表取締役の上村謙輔氏は、そんな状況に危機感を抱く。
代表取締役 上村謙輔氏
自動化するべきか見極めが重要に
2015年のマーケティング業界を賑わせたワードと言えば、マーケティングオートメーション(自動化)ではないだろうか。マーケティング活動におけるさまざまなプロセスが自動化されていく中で、マーケティング戦略に欠かせない「Web解析」の自動化もまた進んでおり、レポート集計を自動化した上で、自動的に課題を見つけて改善案の提案までしてくれるサービスも登場している。
そうした中、「自動化することが目的となってしまっている状況に違和感を抱いている」と、オートメーション化が進むWeb解析市場に警笛を鳴らすのは、Web解析事業を手がけるサードパーティートラスト代表取締役の上村謙輔氏だ。上村氏は、広告会社でWeb解析事業を牽引した後に独立。Web解析の技術的な知識と、実際にデータをどう活かすのかというマーケティング視点を兼ね備えたWeb解析のプロフェッショナルとしてこれまで10年近く実績を積んできた。
「ここ数年でオートメーションの流れが進む中で、分析・レポートの自動化もトレンドのようになっており、解析という市場が本質的ではない方向に進んでいる側面もあると感じています。業務効率を上げるという面で、マーケティングオートメーションは当然大切ではありますが、普及に従って自動化すべきところとそうでないところの見極めがマーケターにとって重要になってくるのではないでしょうか。その点で言うと、“集計”は自動化していくべきですが、データから課題を見つけ、具体的にどう改善していくのかを考える“分析”の面は自動化できないし、するべきではないと私は考えています。経験上、自動で発見できる課題や改善案に、マーケティングを本質的な意味で後押しするほどのパワーがあるデータは出てこないからです」と話す。
Web解析データはさまざまな要因に影響を受けるデリケートなものであり、完全に綺麗なデータが収集されていることも非常に稀。自動型ツールを使用してマーケティングに作用するような有益な成果を取得できている企業は少ないとも上村氏は指摘する。
「自動型ツールが、ページAとページBではページAを見た人の方が獲得効率が良いと評価をしても、果たしてその流入経路やコンテンツ内容は公平に比較できるものでしょうか。離脱率が高いページとして高くて然るべきキャンペーンページがピックアップされたり、またパラメータでURLが分散しておりページを統合しなくてはならない場面も多くあり、その場合は手動でデータを整えなければなりません。データクリーニングや、企業ごとにおかれた背景、市況の変化、広告施策など、マーケティング視点でデータを読んで考察を行うという工程は、ある一定の経験がなければ難しく、オートメーションで対応できる領域ではありません。Googleアナリティクスなどの普及に伴って、取り組みとしてデータ解析をしている企業は多くあると思いますが、はたして現在見ているデータが本当に正しいものなのか、レポートが会社の課題解決につながっているのかを確認する必要があります」。
枯渇するアナリティクス人材
内製化の前に企業が考えること
上村氏が代表を務めるサードパーティートラストは、国内有数のWebアナリティクス専門の企業。自動レポート作成ツール「TrustMonitor(トラストモニター)」の提供をはじめ、会社創立から4年で、ナショナルクライアントや大手広告会社をはじめとした企業のレポートを3000件以上作成してきた。個別設計レポートに対するニーズの高まりを受け、2015年10月からは個別設計のWEB解析レポート作成プラットフォーム「CLAY(クレイ)」の提供を開始。トラストモニターが全クライアント共通の定型レポートであるのに対し、CLAYでは顧客ごとのレポート設計やデータクリーニングを行い、よりビジネスに直結するレポートの提供が可能になっている。
個別設計レポートの需要が増える裏で、企業のWeb解析業務のアウトソースの波が来ていることを実感していると上村氏は言う。社内でWeb解析業務を内製化するのは、人材育成に多くの費用と時間がかかる一方、貴重な人材となるため退職リスクも高いことから容易なことではない。「Web解析業務をアウトソースした方がリスクが低い」、と判断する企業が増えつつあるのだ。
「企業の中にWeb解析業務ができる人材を確保することは重要だと思います。ただ、社内にWeb解析のスキルレベルが測れる人材がいない中での育成及び採用は、とても困難で危険です。まず内製化に向けてパートナーと連携しながら今いるメンバーに確かな知見を身に着けさせること。そのように徐々に社内にWeb解析の知見をためていく順序立てた体制の構築が大切だと思います」。
同社は12月から、新たにサイト内アンケートツール「VoicePocket」をローンチ。導入することで、「訪問している顧客は他社サービスを利用しているのか?」、「サービスのどの部分が不安で迷っているのか?」、といった解析ツールでは分からない「ユーザーの声」を集めることができ、Googleアナリティクスに自動的に送信される仕組みだ。
「解析ツールから得られる定量的な行動履歴と、アンケートによる定性的な気持ちとをつなげることで、よりマーケティングにダイレクトに活用できるパワフルなデータを顧客に提供できる」と上村氏。「お客さまが本質的な意味で有益なデータを取得できることをゴールとして、今後も解析事業を展開していく」と語った。
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