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人生100年時代のマーケティング戦略

変わるシニアマーケティング キーワードは『はたらき』かけるシニア

安並まりや氏(博報堂)

超・長寿社会を迎えつつある中で、シニア世代の価値観やライフスタイルも多様化を見せている。これからの時代を見据えたシニアマーケティングの在り方を、博報堂「博報堂シニアビジネスフォース」の安並まりや氏が解説する。

不安と希望が入り混じった陰・陽の間で気持ちが揺れ動く

日本は世界最速で高齢者の国になると言われています。2025年には2人にひとりが50代以上になり、80年から100年生きることを前提として人生設計していくことが求められる時代を迎えています。

博報堂は2000年からシニア研究を行っており、アクティブに人生を楽しむ今までとは異なるシニア像「新しい大人」の生態や、口コミがどのように消費に結びつくかを明らかにした「関係性消費」など60代以上の生活者を長年にわたり、ウォッチしてきました。

プロジェクトチーム「博報堂シニアビジネスフォース」を設立した2018年から、日本の最速高齢化の流れに着目しています。リタイア後30年以上生きることが当たり前になることを「100年生活者」と定義し、このような時代における生活者のニーズやマーケティングの在り方について調査や事例を基に考察を行いました。

当社が行った「100年生活調査(※1)」によると、100年生きることに否定を示す回答が、肯定派の2倍以上となる結果が得られました(図1参照)。否定派の理由を自由回答から見てみると、健康と経済の不安が多く挙がりました。さらには、「孤独に耐えることができない」「安楽死を選ぶことができればよいのに」といった少し心配になる声も見受けられました。

※1. 新大人研 100年生活調査(対象者:20-69歳男女 1500名、実査:2017年3月、手法:インターネット調査)

図1 100年生活調査①
100年生きることに対する否定意見は、肯定意見を大きく上回る。

一方の肯定派からは、「もっと人生を楽しめる」「1世紀分の歴史をこの目で見たい」といった意見がありました。現在の不安の延長線である「陰」の気持ちと、未来への希望や願望を表す「陽」の気持ちの間で揺れ動いているのが、「人生100年時代」に対するシニアの気持ちだと思います。

このような状況を踏まえて、現在提供されているシニアに向けの商品・サービスやコミュニケーションを眺めると、不安や不満を改善することを目的とした「陰」発想のものが多い気がします。具体的に言えば、塩分が多い食品においては減塩を訴求する、扱いが難しい機器に対しては取り扱いが簡単であることをアピールする、価格がハードルであれば、お得感を訴えるなどです。

もちろん、いずれもある程度の効果を示す施策だと思いますが、これらは本当にシニアが求めているものなのでしょうか。タブレットを利用している60代以上の方々に商品購入のきっかけについて話を聞いたところ、意外な発見がありました。

例えば、家事をしながら、いつでもどこでも好きなドラマを観たいからタブレットを購入したという62歳の女性。タブレットを購入する前は、テレビで録画したドラマを観ている時にリビングから移動するとなると逐一、再生を停止する必要があり、行動が制限されていました。ですがタブレット購入後は、自分の行動先まで画面を持ち運べるようになったので、今ではドラマを堪能しながら家事が捗るようになったそうです。一方で、リビングにあるテレビはもうほとんど見なくなったとか。

67歳の男性がタブレットを購入したきっかけは、息子の家に遊びに行ったとき、息子がタブレットで雑誌を読んでおり、そのスタイルが単にかっこいいと感じたから。

さらに旅行好きの男性の例では、旅行にいろいろな本を持っていきたくても紙の本だと重くて持っていけないと思っていたと言います。それがタブレットであれば多くの本を旅に持っていくことができると気づき、購入に至ったそうです。

いずれの方も、購入動機は単なる不満・不安の解消ではありません。こんな生活がしたい、こんな風になりたいといった暮らしの在り方への願望・欲望が購入のドライバーになっていることは大きな発見でした。

このことを踏まえると「人生100年時代」は、マーケティングを人生や暮らしの在り方そのものから再設計すべきタイミングと言えるのではないでしょうか。真に求められているのは先行きへの不安を、楽しみ・ワクワクに変えてくれる提案です。

シニア世代の3つのインサイトをマーケティングに落とし込む

「陰」発想に陥りがちなマーケティングを、願望や希望に根差した「陽」発想のマーケティングに転換するため、博報堂シニアビジネスフォースではシニア世代の3つのインサイト、「働きたい」「つながりたい」「貢献したい」に着目しました …

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