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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

インサイトは、共感という灯りを点ける「スイッチ」

尾形真理子氏(Tang)

今月のテーマ:コピーライティングの基本

ブランドに対する"共感"がマーケティング戦略上の競争軸となっていく一方、ますます価値観が多様化する時代においては生活者のインサイトを捉え、さらに共感を生むことは容易ではありません。共感を呼び起こすインサイトの捉え方、そして広告として機能するコピーを制作するポイントやノウハウについて、第一線で活躍するプロフェッショナルが解説します。

    共感を生む、インサイトの見つけ方のポイント

  • インサイトは、商品とターゲットの間にあり、それらを直線上につなぐもの。
  • インサイトは共感を生み、共感は自分ごと化につながる。自分ごと化して好きになってもらうことで人は動く
  • インサイトを見つける工程においては、主観と客観を混同しないように注意する。

実在すら怪しいインサイトというお化け

「そのコピーは、インサイトを突いているか?」というのは、広告制作者なら誰もが意識をするところです。ターゲット層の潜在的なニーズにいち早く気づき、クリエイティブを設計する。うーん。頭では理解できるけど、体得するのは難しい。オリエンを受けて、いざ「インサイトはどこだ?」と意気込んでみても、コンパスも持たずに、樹海に足を踏み入れるようなものなのです。

なぜそんな物騒なことを言うかといえば、わたし自身がインサイトの樹海を彷徨った経験が何度もあるからです。インサイトというのは実在すら怪しいお化けみたいな存在です。

赤ちゃん言葉がインサイト!?ヒントは姉の出産から

申し遅れましたが、Tangの尾形真理子と言います。2001年に博報堂に入社し、コピーライターとして配属されましたが、わたしがコピーの役割を学ぶには、だいぶ長い時間がかかりました。サバを読んでも10年ほど。そんなわたしが「これがコピーライターの仕事か!これぞインサイトなのかっ!」と、大きなヒントに出会う機会がありました。

それは仕事ではなく、姉の出産がきっかけでした。生まれて間もなく甥っ子は、なかなかの慎重派であることが判明。離乳食を始めたくても、どんな食材も断固拒絶。空腹なのか夜泣きもひどく、姉はふらふらになって育児書を読みあさっていました。お医者さんも、先輩ママも、親身になってアドバイスをくれます。「次第に慣れていくから焦らなくても大丈夫だよ」と。それでも姉の不安は増すばかりでした。

「これ、涙出た」。吹っ切れた顔で姉が冊子を見せてくれました。それは役所でもらったものらしく、内容は育児書とほぼ同じです。ただし、赤ちゃん言葉で書かれていました。

"ママがせっかくつくってくれたのに、はじめての味はビックリして出しちゃうんだ。何度も口にするうちに食べられるようになっていくよ。だから心配しないでね。"

頭では分かっているけど心では分かっている?

ノイローゼになるほど姉を悩ませていたのは、離乳食を食べないことでも、夜泣きがひどいことでもなく、「赤ちゃんが喋ってくれない」ということでした。「なんで出しちゃうの?」「なんで泣いてるの?」と、姉は幾度となく問いかけたでしょう。生後数カ月の赤ちゃんが言葉を持たないのは当たり前だと、わたしたちは思い込んでいます。

その冊子を読んだら、赤ちゃんの声が聞こえるようだったと姉は言っていました。姉が何より欲しかったのは、大人からの「大丈夫」ではなく、赤ちゃん自身の「大丈夫」という声だったのです。

オリエンは「育児アドバイス冊子」

「もし自分がこの冊子を担当するコピーライターだったら?」。そう仮定した途端に恥ずかしくなりました。わたしなら、母親が涙するようなキャッチコピーを狙っただろうな、と。育児のインサイトは孤独にある!とか息巻いて、「ひとりじゃないよ」とか、「ママ、頑張り過ぎないで」とか。いや、これじゃパンチが足りないとか、明後日の方向で悩んだりして。アホか。

ターゲットインサイトも、コピーワークも、最適解はひとつではないでしょう。この冊子は当事者すら無自覚だったインサイトを丁寧に発見し、育児書の内容を、赤ちゃん自らの言葉でママに話しかけるコピーワークに変換した。もしかしたらコピーライターではなく、役所の方がつくったのかもしれません。わたしが目指すべき仕事は、この手づくりの冊子にあると気づきました。

離乳食をなかなか口にしない赤ちゃんを前にして悩んでいるママが聞きたい言葉とは何か。大人からの「大丈夫」ではなく、赤ちゃん自身の「大丈夫」の声を聞きたいという、ママたちのインサイトを捉えた、役所の冊子に尾形氏はインサイトと向き合うヒントを得た。

@123RF

商品→インサイト←ターゲット 直線上でつながる

闇雲にインサイトを探すのは危険だと、わたしは考えています。商品とターゲットをつなぐために、インサイトは必要なのです。例えば最近のわたしの仕事で、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』があります(図)

図 『映画ドラえもん のび太の月面探査記』
2019年3月1日公開の『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の広告ポスター。DVDとBlu-rayが好評発売中。

Ⓒ藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2019

「子どもだけじゃなく大人にも観て欲しい」というのが告知ポスターのオリエンでした。もしこれが...

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