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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

「オリエン」はクリエイティブ制作のスタートラインではない!

北川廣一氏(サン・アド)

今月のテーマ:新任担当者向け 期待以上の制作物ができあがる!宣伝部門「オリエン」の極意

マーケティング課題の解決に向け、何かしらのアクションを取ろうとするとき、外部パートナーの協力は不可欠です。しかし、広告・コミュニケーション領域における発注業務は発注時点では、その質は決まってはいません。広告会社やクリエイターとのコミュニケーションの質が、アウトプットの成否を大きく左右するのです。

この一連のコミュニケーションの起点になるのが「オリエン」。マーケティング活動の打ち手が「広告」だけに留まらない時代、そのあり方は、従来通りでは立ち行かなくなっています。では、現在のマーケティング環境においては、どのような「オリエン」が望ましいのでしょうか。宣伝部門経験者の視点とクリエイターの視点から、良い「オリエン」とは何か、紐解いていきます。

    期待以上の制作物ができあがる「オリエン」の極意

  • 従来のオリエンの「バトンリレー方式」ではなく、商品開発からクリエイターと協力するのが理想。
  • オリエンは事業部が商品の説明をし、宣伝部は1 Sheet 3 Sentences 5 minutesで伝える。
  • オリエンが単なる通過儀礼になっていないか?何のために行うかを今一度自問すべき。

バトンリレー方式がクリエイティブジャンプを妨げる

広告方針を固めて、クリエイターにクリエイティブを依頼(発注)すること。これが「オリエン」であるならば、「オリエン」はまさに、クリエイティブ制作のスタートラインになります。しかし私はずっとこのことに違和感を覚えてきました。

事業部が中心となって商品やサービスのマーケティング戦略を立案し、そこに宣伝部が加わり、広告戦略を練ってオリエンをする。言わば、「事業部⇒宣伝部⇒オリエン⇒クリエイター⇒プレゼン⇒選定」というバトンリレー方式こそが、クリエイティブジャンプを妨げている要因ではないかと考えてきました。

クリエイティブが、商品やサービスの本質をえぐり、ユーザーの心を動かすものであるとするならば、そのような重要なことをバトンリレー(流れ作業)で行って良いものでしょうか。けれども、この流れで進めなくてはならない事情があるのも事実です。それは、「競合」という弊害からくるものです。

広告に多くのコストを要することは言うまでもなく、そのコストに見合った効果を得るために、少しでも強いクリエイティブを求めることは当然です。そして「競合」は、多くの角度から多彩なクリエイティブ提案を受けられる手段で、多額の広告費を使ううえで必要となる公平性も担保できます。しかし3社ないしは4社のクリエイターが、競合オリエンの場で、初めて商品の情報や広告の方向性、「What to say」を聞くのだとして、果たしてそれで商品の本質やユーザーの心を動かす域に迫れるのでしょうか。

クリエイターとオリエンの前から「共創」する

私は2年前までサントリーに所属し、ブランドや宣伝の仕事をしてきました。サントリーの事例を紹介すると、サントリーではほとんど競合を行いません。競合をするどころか、新製品開発や商品リニューアルの広告を行うときに、かなり前段階からクリエイターにチームに入ってもらいます。

日常的にクリエイターとのコミュニケーションを多くとり、クリエイターの得意領域や表現の世界観などを把握しています。クリエイターだけでなく、演出家やフォトグラファーも広く知っています。そのため、ある商品の広告を考えるときに、早い段階からクリエイター候補を決めてチームに入っていただき、同じ船に乗って、一緒にクリエイティブ表現まで行き着くのです。

例えば、広告施策の前の商品開発の段階から、「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」というネーミングについてクリエイターに相談したり、「サントリー天然水」の本質を感じていただくためにクリエイターと一緒に南アルプスや白州、奥大山に行ったりということを行いました。

そう簡単にクリエイターと密にコミュニケーションを取る機会はないと思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし実は、機会はたくさんあります。広告会社の営業に声をかけるも良し、クリエイティブ会社のWebサイトを閲覧しても良し、宣伝会議やACCのセミナーやイベントに参加するのも良いでしょう。

多くのクリエイターと知り合い、自分の頭の中にクリエイターの広告表現や世界観をインプットしていくのです。そして商品の課題に合わせ、「自分の頭の中にあるクリエイターインデックス」から最適なクリエイターを選定します。すなわち宣伝部員である皆さんの頭の中で「クリエイターを競合させる」、これこそが真の「競合」だと私は思います。

社内の事業部と宣伝部間で悶々と閉ざされたディスカッションを行い、そして競合オリエンで依頼した後はクリエイターの提案をプレゼンまで待つという受身の姿勢より、商品を広告宣伝する「同士」として自分が選んだクリエイターと併走し、一緒にクリエイティブをつくっていくほうが、予定調和でない、ジャンプしたものができると確信しています。

ACCやTCCの授賞式でグランプリなどを受賞されたクライアントのスピーチを聞くと、クライアントとクリエイターの距離の近さや、お互いの信頼度の厚さを感じることが多くあります。商品を宣伝しようと考えたとき、もしかしたら、それ以前にクリエイターとの関係性を日常の中で築こうとしたとき、すでにクリエイティブ制作は始まっています。

そのような意味で、「オリエン」は決してクリエイティブ制作のスタートラインではないのです。極端な話ですが、「オリエン」は「広告予算とスケジュールを確認する儀式の場」という割り切りも必要かもしれません …

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