顧客データを自社だけで抱え込むことで差別化を図る時代から、複数社でデータを連携・共有することで新しい価値を共創する時代へ。業界・企業の垣根を越えたアライアンス体制を構築し、データ共有・活用に向けた歩みを着実に進めている「コネクティッドホーム アライアンス」の取り組みと構想について、理事長の市来利之氏に聞きました。
米国のIoTサービスはいまや相互接続が当たり前
今年7月に発足した「コネクティッドホーム アライアンス」は、「暮らしのIoT」サービスの実現を目指す企業が業界を越えて集まった企業連合です。世の中には今、「IoT」を標榜する技術やサービスが乱立していますが、我々はIoTを「産業用のIoT」と「暮らしのIoT」の2つに分けて捉え、このうち生活者の暮らしをより快適・便利・安全にする「暮らしのIoT」を構築したいと考えています。
私がIoTの重要性を強く認識したのは5年ほど前のことです。そうして2015年2月、東急グループのイッツ・コミュニケーションズのサービスとして、外出先からスマートフォンやタブレットで家の中を自由にコントロールできる「インテリジェント ホーム」をスタートしました。米国ではすでに浸透しつつあった「暮らしのIoT(コネクティッドホーム)」を、日本に初めて導入したサービスでした。
日本企業の製品・サービス開発力のポテンシャルをもってすれば、「暮らしのIoT」はもっと広がっていてもいいはず。それにもかかわらず、米国と日本の間に大きな差がついている背景には、さまざまな業種の企業が独自の考えで研究や開発を進めている現状があります。
自分たちだけで開発して、自分たちだけがそれによって生み出される利益を享受する──このような考え方では、生活者が真に求める利便性やクオリティとは乖離した、むしろ不便なIoT環境がつくり上げられてしまいかねません。似たようなサービスが乱立し、どれを選んでいいかわからない。結果的にどのサービスも衰退してしまう⋯⋯。それが、日本の「暮らしのIoT」の現状なのです。
米ラスベガスで開催される家電見本市「CES」に毎年参加しているのですが、3~4年前からIoTに関する出展が急激に増えました。当初は「こんなに先進的なものをつくったぞ!」という“技術自慢”が中心だったのが、最近では製品・サービスが優れていることは前提として、「Amazon Alexaにも、Google Homeにも、Comcastにも、AT&Tにも接続できる」という汎用性を謳うものが増えているのです。
違う企業のサービス同士が連携しているのが当たり前、そんな状況を目の当たりにしました。それに対し、さまざまな企業が「ジャパンクオリティ」の優れた製品・サービスを多く生み出しているものの、サービス連携はおろか、情報共有すらほとんどできていない日本企業。このままではいけないと思いました。
幸いにして、「インテリジェント ホーム」をスタートして数年の間に、「暮らしのIoT」の構築に意欲的な企業とのネットワークが少しずつ広がっていました。そうした企業と話をする中で、業界の垣根を越えて複数の企業が集まり、真に生活者の暮らしを豊かにするIoTの実現に向けて連携する組織体をつくろうという構想が生まれました ...