業種業態を問わず、あらゆる企業にとって「データを活用した新たな価値創造」は重要なミッションとなっています。自社で保有しているデータを活用することはもちろん、他社が持つデータと連携する動きもみられます。異なる業界の企業2社が集まり、他社とのデータ連携を進めていく上での課題、またデータ連携ができたらどんな未来が広がるかというアイデアについて、意見を交わしました。

(左)モスフードサービス 営業企画部 営業サポートグループリーダー
Webマーケティング・ネット注文推進担当 齊藤雅久氏
(右)ジェーシービー イノベーション統括部長 久保寺晋也氏
―現在のお仕事において顧客データとどのように向き合っているか聞かせてください。
齊藤:私は小売り業向けの調査会社を経て、1996年にモスフードサービスに入社しました。当時のモスバーガーは、出店数を急速に伸ばしていた時期。私は出店先の立地調査をするチームの一員として入社し、以来11年間にわたってその業務に従事しました。うち5~6年は各店舗の商圏を把握するための市場調査や来店客調査にも携わり、全国の店舗の9割以上を訪問しました。
そうして蓄積したマーケティングの知見や分析データを生かし、2008年にマーケティング室に異動してチェーン全体のマーケティングも担うようになりました。マーケティング室で調査チーム、販売促進チーム、デジタルチームを各3年経験したのち、現在の営業企画部へ。マーケティング部門が考えたデジタル施策を現場が有効活用できるよう、加盟店オーナーや店長、スーパーバイザーをフォローする営業サポートチームに所属しています。
飲食店というのは、現場のオペレーションが命。本部が打ち出した新しいデジタル施策によって、既存のオペレーションが乱れることを、現場は強く懸念します。オーナー会・店長会にも顔を出し、施策を取り入れることで業務をいかに効率化できるかを根気強く伝えるようにしています。「この施策・オペレーションは、お客さまから見てどうか」という、一顧客としての目線は、入社から現在に至るまで忘れないよう心がけています。
久保寺:私は1994年に、新卒でジェーシービーに入社しました。債権管理業務に従事したのち、4年半ほどマーケティング部門を経験しました。クレジットカード会社は個人情報や店舗の売上情報など日々大量のデータを扱っていますから、「データを利活用してお客さまにより良いサービス・商品を提供する」のはビジネスの根幹とも言えます。
しかし、データのみに対峙していると、私たちが目指すことと「実際にお客さまが感じていること」が乖離していく恐れがある。そこで、お客さまの"生の声"をマーケティングに取り入れるべく、リサーチチームを立ち上げ、リサーチで得た結果とデータとを掛け合わせたオリジナルのマーケティングを確立しようと取り組みました。
その後は人事部で採用・研修・評価などを8年半担当したのち、経営企画などを経て、現在に至ります。もともと、新技術や市場動向に関する調査・研究を行う「事業創造部」という部署がありましたが、Fintechの動きが活発化し、決済業界において競争の複雑化が起きていることを受け、今年4月に「イノベーション統括部」が新設されました。同部は、当社ビジネスのトランスフォーメーションを実現することをミッションとしています。
当社では、ブランド事業、カード事業や加盟店事業などさまざまな部門で、それぞれ会員や加盟店の取引データを活用した販売促進施策を行っており、イノベーション統括部においても、データ活用は重要なテーマとして捉えています。取引データを活用した販売促進施策はこれまでも行ってきましたが、当社が保有するデータには他にも活用の余地があるのではないかという考えの下、ビッグデータを活用した新たなビジネスを構想し始めたところです。
トライアルのひとつが、ビッグデータ解析ベンチャーのナウキャストと共同開発し今年5月から提供を開始したサービス「JCB消費NOW」。情報提供に同意をいただいたお客さまの属性や決済情報を、個人が特定できないよう統計化し、消費指数として「JCB消費NOW」サイトで公開しています。実態がとらえづらかった業種別や販売形態別の消費活動を把握することができるため、小売り業界のマーケティング担当者や証券アナリスト、行政機関の調査分析業務に活用いただいています。
齊藤:顧客データに基づく、きめ細かいマーケティングは、あまり実現できていませんでした。当社が扱う顧客データというと、昔も今もPOSデータが中心です。登録制の会員組織の運営を始めたのが2008年で、「モスバーガーモバイル」を開設し、メールアドレス・性別・年齢・居住都道府県のみの登録で簡易的な会員になっていただき、クーポンを発行して店舗送客を図りました。
さらにお客さまとの関係を深めるべく、2012年にチャージ式プリペイドカード「モスカード」を導入。毎月25~29日の「モスカードの日」に1000円以上入金すると4%相当のポイントを付与するなど入金金額に応じてMOSポイントが貯まります。高い頻度で来店・利用くださるロイヤル顧客に還元することで、ブランドからの離反を防止しています。
カードの利用・チャージ履歴から、お客さまの購買状況が把握できるようになり、2015年からは来店回数と購入金額に応じた「モスカードプログラム」をスタートしました。マーケティングオートメーション(MA)ツールを活用し、ランク別にキャンペーンメールを出し分けるなどの施策を行っています。
さらに2015年には、スマートフォンやPCから商品を注文し、店頭受取や宅配ができる「モスのネット注文」を開始。店頭で待たずに商品を受け取ることができるほか、さまざまな理由で店舗に足を運ぶことが難しい方にもモスを楽しんでいただけるようになりました。こちらもMAを活用して、例えば前回のご利用から期間があいている方にキャンペーンメールを送るなどのアプローチを行っています。
2016年には、ポイントカード、スタンプカード、電子マネー、クレジットカード、キャッシュカードなどをひとつのアプリに集約できる共通プラットフォーム「スマホサイフ」に参画 ...