パーソナルデータの利活用の可能性が広がることでメリットを得るのは、もちろん自治体や企業だけではありません。情報主体である消費者も、その便益を享受すべきであることは言うまでもありません。米国や欧州で広がる、パーソナルデータを活用した消費者向けのサービスの現状をレポートします。
データ利活用のメリットは消費者も享受すべき
これまで、SNS運営会社や大手ポイントカード会社などは、消費者から取得したパーソナルデータ(個人に関わる情報)を、効果的な広告を打つための材料として活用してきた。しかし、こうした企業側の一方的なパーソナルデータの収集・活用に対して、消費者側もそのメリットを享受するべきであるといった考え方が、欧米を中心に広がってきている。
欧米では、政府もまたそうした考え方を後押しする政策を打ち出しており、民間企業からもパーソナルデータ活用によって消費者側がメリットを享受するサービスが生まれてきている。
消費者向けデータ活用を下支えする欧米諸国の政府動向
まず、米国におけるパーソナルデータ関連政策であるが、2011年7月、国家科学技術諮問委員会(National Science and Technology Council’s Committee on Technology)の下、「Smart Disclosureタスクフォース」を立ち上げ、開示データを活用した消費者向けの民間アプリの開発促進や、消費者による自身のパーソナルデータへの簡易なアクセス推進等の取り組みを実施した。
Smart Disclosureの具体的施策として有名なのが、個人の医療データを本人が閲覧・ダウンロードできる仕組み「Blue Button」を官民連携で提供したことである。各医療機関のWebサイトの個人ページにログインし、そこに配置された青いボタンを押すと、健康診断結果や診断データなど、さまざまな医療データをダウンロードできる(図表1)。
これらの医療データの形式は標準化されており、医療データを活用したサービスの開発・提供は民間企業に委ねられている。医療データをダウンロードした個人は、さまざまな医療データの活用アプリを用いて、例えば医療機関へのデータ連携によってセカンドオピニオンを受けるなどのサービスが享受できる。
同様の仕組みとして、電力やガスの使用量などのエネルギーデータを個人が電力・ガス会社各社のWebサイトからダウンロードする「Green Button」も提供されている。
英国においても、米国とよく似た政策がある。消費者に関するデータを保持している企業に、ポータブルで再利用が可能な(電子的な)形式で、そのデータを本人に公開し直すことを促進する政府のプロジェクト「midata施策」が2011年より始まっている。
特徴は、エネルギー、銀行、クレジットカード、通信の4分野については、消費者の求めに応じて特定の形式で取引データを提供する義務を課す権限を法によって設けている点である。現時点では未施行ではあるが、産業界の自主的な取り組みが不十分な場合は、同法を施行すると言われているため、4分野の企業はこうした取り組みを半ば強制的に推進した。
EUにおいては、日本の個人情報保護法と同様の位置づけとなる「EU一般データ保護規則」(GDPR:General Data Protection Regulation)が2018年5月25日に施行開始される。GDPRでは、個人が企業に提供したパーソナルデータを電子的な形式で受け取る権利を有することが規定されているため、EU各国の企業は、消費者の求めに応じてパーソナルデータを本人に提供する仕組みを準備することになった。
欧米企業が提供する消費者向けビジネス
こうした政策もあり、欧米ではパーソナルデータの流通環境が整備されつつあると同時に、民間企業においてパーソナルデータを活用した消費者向けビジネスが展開されている。いくつか事例を紹介したい。
(1)パーソナルデータを集約し安全に管理することに付加価値を置いたサービス
各種SNSへ本人が投稿した写真をアプリ上に集約し、本人が一元的に閲覧できる「Digi.me」というサービスがある。FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSに投稿した写真を一括管理することができ、例えば「キーワード」や「写真へのコメント」「カレンダーの日付」での検索や、PDF化、Evernoteへの連携も可能となっている ...