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企業・競争から共創へ ビッグデータ活用の新境地

法的に問題なくても、消費者は嫌悪感?企業のデータ利活用に対する消費者心理の今

大洞 健治郎(KPMGコンサルティング)

企業のマーケティングにおけるデータ利活用。改正個人情報保護法において「匿名加工情報」を自由に利活用できることが明記され、またIoTの普及によってより詳細な生活データも取得できるようになるなど、パーソナルデータの活用可能性は大きく広がりつつあります。プライバシーリスクを取り除く技術が発達し、法的にも問題なし。とは言え、自身の個人情報を利用される立場の消費者としては、嫌悪感や拒否感をぬぐいきれない部分もあるかと思います。パーソナルデータの利活用に対する消費者意識の現状とは。

日本の改正個人情報保護法(改正法)、EUの一般データ保護規則(GDPR)など、いま世界中で、個人情報保護に関連する法令が大きく変わろうとしています。これに伴い、「パーソナルデータの利活用に対する消費者の意識」というテーマも、急速に重要性を増してきています。

法整備の背景にあるのは、パーソナルデータの利活用にまつわるリスクが高まっている状況。データを活用して効果的なマーケティング施策を実施したい事業者にとってはチャンスと言える環境が整いつつある一方で、増大するリスクに目を向けずして、これからのデータ利活用は成り立たないと言わざるを得ません。

いまや、WebサイトやIoT端末を通じて、パーソナルデータ(属性情報、行動履歴情報など)を容易に取得できます。いわゆる「個人情報」(個人を特定できる情報)ではないにしろ、消費者一人ひとりについて、これまで以上に多様かつ詳細なデータを入手できる時代になっているのです。

例えば日本では改正法の施行により、そうした「識別非特定情報」(一人ひとりは識別されるが、個人が特定されない状態の情報)について、法令で定める匿名加工の基準を満たす場合は、合法的に活用できるようになりました。

しかし、こういったデータについて留意しなければならないのは、「蓄積すればするほど、個人の特定性は高まる」ということ。プライバシーを侵害することのないよう、データを利活用する企業としてどのような対応をしていくかは、現在、全世界共通の重要テーマとなっています。

我々KPMGコンサルティングは世界152カ国にネットワークを持っています。2014年頃から、世界的に重要なテーマとして「パーソナルデータの利活用に対する消費者の意識」に注目し始め、「Global Privacy Advisory Group」を発足しました。パーソナルデータの保護に関連するサービスを担当している各国メンバーが集まって知見を共有し、グローバル企業が各国の法令を遵守しながらパーソナルデータを利活用するためのサポートを行っています。

そのサービスの一環として、消費者意識の実態を把握しようと調査を行ったのが「消費者プライバシーデータに関するグローバル意識調査」です。24カ国6900人を対象に、パーソナルデータの利活用の際に、消費者が快適または不快と考える境界線がどこにあるのかを調査しました。グローバル調査全体の考察は図表1・図表2にまとめました。

図表1 「消費者プライバシーデータに関するグローバル意識調査」に基づく考察(グローバル)
出所:Crossing the line: Staying on the right side of consumer privacy, KPMG International, 2016

図表2 消費者心理の「境界線」
※赤色部分が「容認できる」

消費者意識に寄り添うことがデータ利活用を後押しする

パーソナルデータの利活用について、マーケターの方々は「チャンス」と捉える傾向が強いと思いますが、そこでは「プライバシーに配慮する」という姿勢が欠かせません。その姿勢が、企業に対する信頼を生み、結果的にパーソナルデータを利活用しやすい状況をつくることにもつながっていくのは間違いありません。日本国内のみならず、全世界の市場において同じことが言えます。

これからの社会、そしてビジネスの現場において、パーソナルデータの利活用は不可欠でしょう。我々がイメージする「未来の暮らし」とパーソナルデータの利活用とは、切っても切り離せない関係にあります。目覚めたら、その日の体調に合わせておすすめの朝食レシピを提案してくれる。過去の取引履歴に基づいて、おすすめの株取引をリコメンドしてくれる。

こうした未来的なサービスは、パーソナルデータを収集・蓄積・分析して、一人ひとりにパーソナライズして提供されるものです。コンピュータ上であれ、スマートフォン上であれ、コネクテッドカーであれ、こうしたテクノロジーを利用する際は、往々にして「生活をより便利に、より豊かに、そして時には低コストに変える商品・サービスと引き換えに、個人情報を提供すること」が前提となっているのです。

こうしたトレードオフの関係はデータ社会の根幹をなしていますが、とは言え情報主体である消費者には「プライバシーを守りたい」「侵害リスクは、データを利用する企業側にきちんとケアしてほしい」という意識があります。企業は「パーソナルデータを利活用すると同時に、適切な形で保護・管理する」ための体制を構築するとともに、その姿勢を消費者に対して示していく必要があるでしょう。積極的な活用と保護のための対応を両輪として進めることが重要です。

「気になるが対策はしない」日本の消費者の意識

パーソナルデータの利活用に対する消費者意識は世界的に高まりつつありますが、その程度は国によって大きく異なることが、先の調査から明らかになりました ...

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