ここまでで、他社データとの連携、複数企業でのデータアライアンスと、企業のデータ活用をより有効なものとするための方向性を探ってきました。しかし、こうした取り組みに着手する前に必要なこと。それは、「ビッグデータ」や「データ分析」に対する正しい認識を持ち、自社のデータ活用の足元を固めることです。本稿では、ビッグデータ活用において陥りがちな誤解を指摘するとともに、地に足のついたデータ分析を行うための10のポイントを解説します。
仕事柄、データの分析や処理基盤の相談を受けることが多い。手持ちのデータを生かしてビジネスにつながる分析を狙っているケースもあるが、一方でベンダーのセールストークやメディアに掲載された事例を鵜呑みにして、データ分析を買いかぶっているケースや、ただ漠然とデータ活用をイメージしているケースもある。ここではその経験を生かしながら、データ分析で気をつけるべきことを列挙していく。
POINT 1 〝データ分析の大半は現場の知見を証明すること〟
データ分析の誤解のひとつは、「データ分析をすれば今まで気がつかなかった知見がわかる」という話である。それがまったくないとは言わないが、多くの場合は現場の方々は薄々気づいている。むしろ、データ分析の役割は現場の気づきをデータとして証明することになる。そうなるとデータ分析者に求められるのは、分析者自身が現場に関わっているか、さもなくば現場の方々の気づきを知っておくことである。
なお、現場の方々はその気づきを言語化できているとは限らないため、密なコミュニケーションを通じて聞き取る能力が重要になる。またデータ分析の結果、どれだけ興味深いデータ特性が見つかっても、それでビジネスが変わらないのであれば企業にとっては無意味である。分析者や学者はしばしば、興味深いデータで満足してしまうが、企業においては常にデータ分析がもたらすビジネスの変化によって、そのデータ分析の価値を判断すべきである。
POINT 2 〝データ分析に魔法はない 仮説検証の繰り返し〟
残念ながら、任意のデータを入力すれば、そのデータに含まれる特性を自動的に判別して出力してくれるような万能な分析手法はない。まずは対象となるデータにどんな特性があるのかという仮説を立てて、その特性に合ったデータ分析手法を選んで、実際に分析して、仮説通りの特性があるかどうかを検証することとなる。ビッグデータ向けの分析手法も多様である(図表1)。
仮説を立てたデータ特性に応じ分析手法と多数のパラメータを設定して分析することになるが、仮説通りに特性があることは稀であり、仮説を立て直しては分析するというサイクルを繰り返すことになる。場合によっては何百回も繰り返すこともあるだろう。このため、適切な分析をするには、前述のように分析者は現場の知見に基づいて適切な仮説を立てることに加えて、仮説が正しいことを検証するサイクルを速く回して、正しい仮説に早く行きつくことが重要である。
POINT 3 〝より簡単かつ確実なのは売上・利益拡大より
損失縮小に生かすこと〟
新聞などのメディアでは、データ分析で売上や利益が拡大したという華やかな事例が踊っている。しかし、現実には儲かる方法を見つけることは並大抵ではない。仮にそうした方法があったとしてもライバル企業がすでに実践していることも多いだろう。
一方、損失を減らす方法は簡単に見つけられる。かつ、確実に効果が出ることが多い。その方法であるが、過去に損失が出た事例を集めて、それらをパターン化する。そして、いま動いているビジネスがそのパターンに合致していないかを調べて、仮に合致していれば早めに対策をとるということになる。
実際、初期のビッグデータブームの時代、国内で最もビッグデータを活用していたのはネットゲーム事業者であろう。彼らは過去に退会したユーザーの行動を徹底的に調べて、それをパターン化し、既存ユーザーがそのパターンに合致したら(図表2)、キャンペーンを知らせたり、ポイントを付与するなどして引き留めを行っていた。
ゲーム事業者にとって、退会しそうなユーザーを引き留めることは損失を防ぐことになる。また、クレジットカード会社はカードの不正利用を見つけるために、一人ひとり、正しくはカード一枚ごとの購買パターンをつくる。そのパターンから少しでも外れた買い方をすると、不正を疑う。これもまた損失縮小のためのデータ活用となる。儲けにつながるデータ特性はわかるとは限らないが、損につながるデータ特性は、既知のものから容易に見つけられるため、それを積極的に利用しない手はない ...