嘘偽りのないコンテンツに寄せられる「信頼」こそブランディングの最適解ーゆきりぬの広告観
美容やグルメ、旅行、ゲームなど多彩なジャンルの動画を配信する、動画クリエイターのゆきりぬさん。自らも企業や自治体のプロモーションに関わった経験を通じて思う広告とは?また最近注目している、Z世代に響くクリエイティブについて語ってもらった。
私の広告観
主人公の食事シーンや心理描写を描く漫画『孤独のグルメ』。これまでにないスタイルが注目され、異例のロングヒット作となり、テレビドラマ化もされた。原作者であり、漫画家、文筆家、ミュージシャンなど多岐にわたり活躍する久住昌之さんに話を聞いた。
久住昌之さん(くすみ・まさゆき)
1958年東京都生まれ。1981年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として短編漫画『夜行』でデビュー。実弟・久住卓也とのユニットQ.B.B.では『中学生日記』が第45回文藝春秋漫画賞を受賞。1994年に始まった谷口ジロー画『孤独のグルメ』や、水沢悦子画『花のズボラ飯』などがドラマ化。漫画家、漫画原作者、文筆家、ミュージシャンとしても活動中。
主人公の井之頭五郎が、仕事の合間に一人食事をしながら、心の声をモノローグで語る『孤独のグルメ』は、1994年に『月刊PANJA』で連載が始まり、1997年に単行本1巻が発売。徐々にネット上を中心に話題になり、作品に出てくる店を食べ歩く人が出てくるなど次第に人気が高まった。2012年には松重豊さん主演でドラマ化され、現在はSeason5が放送中。ドラマに登場した店には、次の日お客さんが行列するほど影響力があるという。また、『孤独のグルメ』の単行本も今年9月、18年ぶりに2巻が発売され、さらに注目が集まっている。
原作者である久住昌之さんは、デビュー当初から「流行遅れにならないもの、長持ちするものを描きたい」という気持ちがあったと話す。「新しいものや流行しているものよりも、過去のもの、終わってしまった古いものに“長持ちのヒント”があるような気がするんです」と久住さん。
作品中に登場する飲食店も少し懐かしいような味のあるお店が特徴だ。ただし、「わざと作ったようなレトロ感を演出している店や『みなさん、こういう懐かしい感じが好きなんでしょ』という意識が見えるような店ではない」と続ける。
原作のエピソードをつくるにあたって、実際に自ら足を運んで店を探すという久住さん。店選びにあたっては、読者はほとんど意識しないという。「読者にどう思われるかではなく、漫画として面白くなるかを重視しています。一番大切なのは、作画をする人の絵柄に合うかどうか。『孤独のグルメ』であれば、谷口ジローさんの描く精密で柔らかい絵柄。谷口さんが描いたときに味が出るような話を探し、生み出すのが、原作者の役目です」と話す。
また、漫画を面白くするためには、頭で考えたりネットで事前に調べたりするよりも実際に自分の目で見て感じることが大切だという。「気になる店を見つけたら、まず入ってみる。メニューを注文して料理を食べ、お店の空気やお客さんの様子をじっくり見ます。確認したいことがあれば、何度も通うこともあります。そうして実際に驚いたり、感動したり、失敗して自分に呆れたりしたときの心の動き・経験がエピソードづくりには欠かせません」。主人公が一人で食べるときの心理描写は、作品の肝。実体験を通して面白いと感じるからこそ、相手に伝わるのだ。
ドラマ版『孤独のグルメ』は、原作コミックを熟知したスタッフが、店を選び、脚本を新しく書き下ろしている。漫画とドラマの伝わり方の違いについて久住さんは、「漫画は読む人それぞれのスピードで進むのに対して、テレビは全員が同じスピードで視聴するという点が大きく違います。あとはセリフや音楽といった音の要素がドラマでは大きな役割を果たしています」と話す。
漫画のシーンをそのまま映像化してしまうと、モノローグのセリフが入っているとはいえ、一人で黙々と食べているだけに、沈黙が多く静かなシーンばかりになってしまう。しかもストーリー上、画面に大きな動きがあるわけでもない。
「だからこそ、漫画と映像をつなぐうえで音楽が重要なのです。例えば、ドラマの中で主演の松重さんが食事をするシーン。松重さんは、撮影時にあくまで味わっておいしく食べてもらうだけです。そこに激しい音楽を乗せると、映像上では、ガツガツとおいしそうに勢いよく食べている感じが視聴者に伝わります」と話す。食べるときの気持ちを音楽で表現することで、漫画の雰囲気や魅力が映像で伝わるように演出している。ちなみに、ドラマで流れる音楽は、ミュージシャンでもある久住さんのバンド「The Screen Tones」がすべて手がけている。
また、ドラマ制作にあたって久住さんが必ず細部まで確認しているのが、主人公である五郎のモノローグのセリフ。そのほとんどを新たに書き直すことも多いという。「確認しているのは“そのセリフは五郎らしいか?”という点です。例えば、肉を食べるシーンに“ジューシー”とか“やわらかい”など書かれていると、いかにもグルメ番組で使われていそうな言葉で、五郎なら絶対使わないなと思って書き直します。普段おいしいものを食べたとき浮かぶ言葉は、シンプルに『これウマい!』かもしれません。もちろんドラマですから、面白くなるように工夫しますが、そうした細かいところに気を使って、五郎という人物のリアリティを出すようにしています」と話す。
ドラマは2012年にスタート。現在は、ドラマ24『孤独のグルメSeason5』が毎週金曜、深夜0時12分テレビ東京他で放送中。
『孤独のグルメ』は、ドラマ放送中や放送後 ...