宣伝会議は、商品・サービスのプロモーションアイデアを競う「販促会議 企画コンペティション(販促コンペ)」を実施している。その受賞・参加者で増えているのがPRパーソン。広報に必要な力を養うのにコンペが活用されているという。受賞者に聞いた。
広報・PRに必要な能力を養うのに、販促コンペが活用できる。そう考えて、私が応募し始めたのは、2019年のこと。第12回で協賛企業賞を、第13回でゴールドを受賞することができました。
プランニング力が重要に
PRコミュニケーションの常識は今、大きな変遷の中にあります。従来マスメディアの報道が人々の行動変容に大きな影響を与えていたことから、メディアパブリシティを戦略的に獲得できる手法としての側面にスポットライトが当てられてきました。
ところが十年ほど前から、ウェブ・SNSまで情報流通の幅が無限に広がり、ただマスメディアに報道してもらうだけでは「人を動かす」ことが難しくなりました。こうした流れから、昨今のPRコンサルテーションの相談には、パブリシティの量だけではなく、その先の人々の意識変化や行動にもつながる、大局的なコミュニケーションの提案が求められることが多くなりました。
このような背景から、PRパーソンは、メディア露出を増やすストーリーづくりの技術や記者とのリレーション構築といった「メディアを動かす戦略」と同様に、その先の情報接触者の意識・行動にまで訴えかける、一般には販促・マーケティング領域の仕事と考えられがちな「人が思わず動いてしまう仕掛け」までプランニングできる力を身に付けるべきと感じています(図1)。
アイデアを鍛えるには
一方、現実の業務では、PRパーソンはパブリシティの獲得に軸足を置いた作業を任されることが多く、「人が思わず動いてしまう仕掛け」を考える力を身に付ける機会が相対的に少ないと感じます。
目に見える成果が得られにくい広報の仕事の中でも、成果として分かりやすいのがメディア露出。そのため、PRパーソンはパブリシティ獲得を期待されて活動することが多くなります。結果として、広報部は他部署からメディア露出を期待され、クライアントから依頼される仕事も、蓄積されるメソッドも、「メディアを動かす戦略」に関することに偏りがちです。
パブリシティ偏重の仕事を抜け出して、新しい時代の要請に応えられるPRのプロになるためには、販促やマーケティングの領域も包括する、統合的なコミュニケーションアイデアを企画立案できる力を身に付け、自ら提案・実行して周りに示さなければなりません。
しかし、そのスキルを鍛える機会がそもそも不足していて、従来の経験値だけではどうしたらいいのか分からない⋯⋯現代のPRパーソンは、このようなジレンマを抱えがちなのではと思います。よって、PRパーソンが「人を動かす仕掛け」を企画立案する力を得るには、業務を超えて自ら学びに行く必要があります(図2)。
実績をつくる絶好のチャンス
そんな中、“本当に人が動くかどうか”という評価基準を持つ販促コンペは、PRパーソンが成長するための場として、スキルを補うのにピッタリだと感じます。
プロの審査員の方々の目を借りて、企画の効果やリアリティを仮説・検証することで、アイデアの考え方を自分の中で体系化し、筋の良い切り口を的確に選び取る判断力を向上できます。また、様々な課題に触れ、本数をこなすことで、打ち出せる企画の数・質が増え、アイデアを提案・実行するスタミナを底上げできます。
実務でもパブリシティを超えたアイデアやクリエイティビティが求められる案件の提案機会や受注が増えました。また、受賞をきっかけに既存クライアントからも相談を持ちかけていただいたり、新規の競合コンペでは賞歴が担当チーム編成の信頼感につながったりといった面で新たな仕事に広がっています。
PR視点の強みを活かす
PRパーソンが販促コンペに参加するメリットは、シンプルに良い結果が出やすいという点にもあると思っています。その理由は、PR業務で培える力をしっかりと活用すれば、このコンペの競争優位性になるためです。特に、「人目を引くファクトの発見力」と「メディアを介したコミュニケーションの提案力」は大きいと感じます。
「人目を引くファクトの発見力」は、アイデアの切り口出しや、企画の納得感を高めるのに大いに役立ちます。PRコミュニケーションの特徴として、商品・サービスと人々の関心をつなぐ、調査データやエビデンスを活用するという側面があります。日々の業務を通じて、メディアの目に引っかかるような驚きのあるデータやファクトを見つけ出し、ストーリーを考える癖が付きますが、この“PR発想”で企画をつくると、説得力やリアリティが格段に向上します。
「メディアを介したコミュニケーションの提案力」は、企画のエグゼキューションを補強するのに使えます。コアアイデアの展開案を示すスライドで、露出メディアの広がりや見出し案を盛り込めれば、“ニュースになる”というPR視点を踏まえたプランニングの強みを活かせます。また、キャンペーンや広告出稿といった他の拡散手法よりもコストがかからず、実施可能性がイメージしやすいため、企画のパフォーマンスをより高く示すことができます。
このように、PR発想を活用することで、よりブルーオーシャンな領域で販促コンペを戦うことができます。
参加すれば、これからの時代に必要なスキルをピンポイントで育てられる。その上で、もし受賞できれば、他部署の社員やクライアントに「こんなこともやれるんだ」とPRの可能性を知ってもらうきっかけになり、新しい領域の仕事にもつながる。そんな機会は他にないため、販促コンペはPRパーソンにとって貴重な場だと考えています。

プラップジャパン
シニアアカウントエグゼクティブ
丸山優河(まるやま・ゆうか)
2016年プラップジャパンに新卒入社。インフラ、観光、ゲーム、玩具、戦略コンサルティングファーム、eコマースなどの多岐にわたる業界の、マーケティング・コーポレートPRに携わる。