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コロナ集団感染、企業SNSのその後

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

コロナ集団感染、企業SNSのその後
新型コロナの国内感染が始まって1年。最初の集団感染で注目されたダイヤモンドプリンセス号の運営会社は、批判の声にさらされながらも、SNSで地道な発信を続けている。

新型コロナの感染が国内で大きな問題として最初に注目されたのは、ダイヤモンドプリンセス号での集団感染だった。この連載(2020年5月号)でも運営会社プリンセスクルーズ幹部の情報発信について紹介した。事件から1年、同社がSNSでどのように発信を続けてきたか紹介したい。

ダイヤモンドプリンセス号が横浜港に入港したのが2020年2月3日。その後の検査で乗客の感染が判明して、乗客・乗員約3700人の船上隔離が始まった。当初は2週間程度と見られたが、全員が下船したのは3月1日。その間、日本はもちろん世界のメディアがこの様子を大きく報じた。船には1000人以上の日本人を含め、56カ国・地域からの人たち。感染者は723人、死者は13人と報じられた。

海外メディアは、対応した日本政府に向けて「人権侵害だ」「効果的な対策ではない」などと批判した。批判の矛先は、もちろん集団感染を広げたクルーズ船の運営会社にも向けられた。

発信手段にSNSを活用

そんな中、プリンセスクルーズ社は船内感染が深刻化してからSNSを重要メッセージの発信における中心的な手段と位置づけてきた。たとえばTwitterのアカウントは、コロナ前は世界の絶景写真や優雅な船旅の魅力を投稿していたが、横浜港での船上隔離をきっかけに、複数の幹部による動画メッセージなどを繰り返し発信するなどして最新の状況を伝えるようになった。

3月下旬に同社は、船内消毒を終えたことなどの報告と多方面からの支援や応援メッセージに対するお礼のメッセージを発信する。その一方で、同社は2021年5月まで全船運航中止の状態だ。2020年9月には2隻のクルーズ船の売却を発表している。

双方向でファンを喜ばせる

この状況でも、同社のSNSは発信を続けている。19万人のフォロワーを持つTwitterの米国アカウントは、1日平均6ツイートだ。発信内容は、決して派手なものではなく、クルーズ船で寄港する街の景色や船内のアトラクションの様子など、旅の楽しさをリマインドするようなものが多い。驚くのは、それに返信する形でファンが自らの体験を語り、早くまた行きたいとコメントしていることだ。

今回のような経緯をたどったアカウントの場合、アンチが執拗に批判的なコメントを投げ続けることも少なくないが、同社にはそれほど多くは見られない。好意的なファンの反応が圧倒的に多数派なのだ。

よく見るとこのアカウントは、こまめにフォロワーのコメントに返信している。もちろんキャンセルなどの問い合わせにも応じている。苦しい時期にも発信を続け、やりとりを深めて再開時に安心して利用してもらえるような関係をつくっているような印象だ。

世の中の先行きは依然として不透明だが、発信するニュースがない、ネガティブな反応が心配などと悩む広報担当には、参考になるアプローチではないだろうか。

社会情報大学院大学 特任教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会情報大学院大学特任教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

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