いま、広報担当者にマーケティングの視点が求められています。今回は、CSVという概念を取り入れた新たな広報の役割を考えていきます。
企業が行う広報活動の全体像を理解することは意外と難しい。新商品発表の記者会見を開いたり、不祥事の際に謝罪会見を行ったりという外部に向けた「見える広報」については、まだ理解しやすい。だが、例えば「リスクマネジメント」「社内広報」といった外部からは「見えない」広報は、活動の意義や役割も含めて理解が及ばない場合もある。企業が行う広報活動には大きく4つのタイプがあると考えられる(図1)。
(1)「攻め」×「社外」
● 宣伝・販売促進のための広報
● 企業ブランドを高めるための広報(Corporate Communication)
● CSR(企業の社会貢献活動)
(2)「攻め」×「社内」
● 企業理念/CI(Corporate Identity)を社員が共有するための広報(例:社内報)
(3)「守り」×「社外」
● ブランドマネジメント
● リスク/クライシスマネジメント
(4)「守り」×「社内」
● 企業ガバナンスを徹底させるための広報
企業の「広報」を考えるときに、私たちは(1)の領域だけ考えがちだ。もちろん(1)は企業の広報活動にとって重要なものだ。だが本来、実際には広報部門が果たすべき業務の領域はさらに幅広い。ステークホルダーとのコンタクトポイントは無数に存在している。こうした一つひとつの接点を通じて「誰に」「何を」「どのように」伝えていくか。また、どのような「関係性」を構築していくかが広報部門の本来の課題である。
コミュニケーション部門の役割の変遷
広報部門の役割は時代とともに変化してきた。以下、経済広報センターによる「企業広報の基本」*1をもとに、役割の変遷を簡単に解説していきたい。
1960年代の高度成長期には、消費革命により大量生産・大量消費の社会になった。広報部門はマスメディアを媒介として豊かになった消費者に向けて自社の優れた技術と商品などの「強み」「魅力」をアピールし販売促進活動に邁進した。
70年代になると高度成長の「ひずみ」が生じ、公害問題などの社会問題が多発した。「モノ」による豊かさから、「心」の豊かさが求められるようになった。企業の広報部門は社会的責任を意識し始め、経営トップの発するメッセージを通じて企業活動への理解を求めると同時に、地域住民などの意見に耳を傾け始めた。
80年代はバブル経済の煽りを受け、企業はCI活動などを通じて自分たちの「個性」を主張し始めた。「ブランド」という言葉がキーワードとなった。冠イベントの実施、博覧会などの大規模プロジェクトへの協賛、社員向け福利厚生サービスの向上、あるいは社内報の充実など、好景気による予算拡大も後押しして総花的な展開を行うようになった。
90年代にはバブルが崩壊し、「リストラ」の嵐が吹き荒れた。企業は「存続」をかけ生き残りを図る中で、事業活動の「継続性」が重要テーマとなった。工場の海外進出などにより、グローバル視点での対外広報が求められるようになった。企業文化のチェックや見直しも行われた。「メセナ」「CSR(企業による社会貢献)」などに注目が集まった。
2000年代に入ると「情報革命」「デジタル化」が進行。インターネット利用が進み企業の「中と外」との境界線が曖昧となった。広報部門が対象とする相手も「ステークホルダー」(自社を取り巻くあらゆる関係者=社会全体)へと拡大した。個人情報保護、機密管理、労働環境の改善などのコーポレートガバナンスや、企業に関する口コミ情報などの多面的な「評判(レピュテーション)」の管理が重視され始めた。
2010年代には「ソーシャル革命」(SNSの利用普及)により、広報部門では従来の「情報発信」という姿勢から「エンゲージメント」の強化という考えが広く一般化し現在に至っている。
今日では広報部門は単に企業情報を発信することによって消費者に「影響を与える」のではなく、社会全体の中でいかに生活者と「良好な関係性」を築いていけるかが課題になっている。
*1 https://www.kkc.or.jp/plaza/basic/
対立からCSR、そして共創(CSV)へ
時代とともに広報部門の役割が変化する中で、近年では「社会貢献(CSR)」に代わって「共創(CSV)」という言葉が多く使われるようになった(図2)。
60年代から70年代にかけての高度成長期の過程では …