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広報担当者の事件簿

社員がテロに巻き込まれた!押し寄せるマスコミに広報部長が取った行動

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    File F国テロで東雲貿易社員が被害に〈前編〉

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    【あらすじ】
    「F国でテロ発生」。ある休日の朝、東雲貿易の広報部員、戸塚龍一はテレビの速報でこんなニュースを目にした。直後、上司からの電話で穏やかな休日は一変する。「うちの社員が被害に遭ったらしい」─。事態が飲み込めないまま出社した戸塚を待ち受けていたのは、これまで経験したことのない、マスコミとの戦いだった─。

    「怒りの矛先」

    昨夜はかなり飲んだ。飲んだというより浴びたと表現したほうが正確かもしれない。ここ1カ月、新商品の発表会、四半期の決算発表、社員の横領……、対応すべきことがありすぎた。その大半が終わりようやく一息ついたのが昨日だった。昨夜は家にたどり着いた記憶のないほど痛飲したのだろう。目が覚めると喉はカラカラでこめかみがズキズキしている。

    昨日まで降っていた雨が止み、窓越しに眺めているベランダの枯れ木に降り注ぐ光が心地いい。「二日酔いの身体を醒ますには良いな」とひとりごちた。2016年が始まり2カ月が過ぎようとしているが、土曜日の朝にゆっくりとした時間を感じるのは久しぶりだった。

    壁の時計は8時15分を指している。週末、家にいるときは決まって観る旅番組の時間だと思い、テーブルに置かれているリモコンのスイッチを押す。妻の美香と3歳になる娘の加奈は、昨日から友達母娘と旅行に出かけている。10時までは誰にも邪魔されずにボーッとできそうだ。番組の見慣れたセットが映し出された。キッチンにある冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一口飲んだ。

    ソファに戻りまた一口飲もうとすると、テレビから速報を知らせるアラート音が聞こえてきた。「F国で爆発事件発生。少なくとも50人以上が死亡、100人以上が負傷したもよう」とテロップが流れた。中東を拠点とする過激派組織による無差別テロは、数年前から西側諸国を震撼させており、ここ1、2年はさらに増している。速報では誰の仕業かを伝えてはいないが、今回もまた彼らによる愚行であることは想像できた。

    「いやな週末だな」。そう呟いてまたミネラルウォーターに手を伸ばした時、携帯の着信音が鳴った。「起きたか。戸塚」「あ、おはようございます」。昨夜、というより数時間前まで一緒にいた課長の目黒泰治からだった。

    「テレビは見たか」「F国の爆発事件のことですか?」「そうだ。すぐに着替えて出社してくれ」。一瞬何のことか分からなかった。まだ脳が活性化していないようだ。

    「外務省から連絡があってな。うちの社員が2人、被害に遭ったようだ。全役員にも連絡している。これから緊急の対策会議だ。至急!」。プツリという音とともに電話は切られた。テロ。戸塚の脳裏から「まさか」の3文字が消えなかった。

    東雲貿易は国内大手の東京証券取引所一部上場の繊維商社だ。戸塚龍一はその一部上場企業の広報部でマスコミ対応を担当している。「今起きていることは現実なのか」。ニュースではまだ詳細は知らされていないが、テロリストによる犯行だとすれば、罪のない人間を殺める、あまりにも身勝手な行為だと、怒りがわいてくる。

    テレビから再びアラート音が鳴った。ワイシャツに袖を通しながらテロップを凝視すると「F国の鉄道駅で爆発事件。日本人3人が巻き添え。うち2人が死亡。少なくとも70人以上が死亡し負傷者は200人を超える模様」と現地メディアの報道として速報が流れた。

    社員通用口からビルに入る。広報部のあるフロアには、休日にもかかわらず大勢の社員がいる。テレビを凝視し眉間に皺をつくっている者、自席に座り頭を抱えている者 …

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