役員が自ら起こした問題で辞任へ ガバナンスが機能していることを示すには?
2024年10月28日、オリンパスのシュテファン・カウフマン取締役代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者)が辞任しました。違法薬物を購入していたと同社に通報があったことがきっかけです。なお、カウフマン氏は、11月27日に麻薬特例法違反で起訴されています。今回は、このケースを題材に、企業の役員が起こした問題について責任を問う場面での危機管理広報について解説します。
リスク広報最前線
近年さらに複雑化する企業リスクに、広報はどう立ち向かうべきか。企業のリスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新の企業リスク事例を踏まえて解説する。
批判の本質はどこにある?炎上止まぬ「エンブレム問題」
2020年の東京オリンピックの公式エンブレムをめぐり、ベルギーの劇場からデザインの盗用を指摘された問題。担当したアートディレクターの佐野研二郎氏は8月5日、会見で盗用を否定したものの、その後も様々な「盗用疑惑」が噴出し、社会的批判が巻き起こった。
2015年9月1日、東京オリンピックの大会組織委員会が、公表済みの公式エンブレムの使用を中止することを発表しました。
7月24日に公式エンブレムを発表した直後から、「ベルギーの劇場のエンブレムに類似している」と指摘され、その後も立て続けに、デザインを担当したアートディレクターの他の作品にも盗用が見つかるといった指摘が相次いだのを受けての結末となりました。
今回は、盗用疑惑が指摘されてから東京オリンピック大会組織委員会・審査委員会が行った広報対応を反面教師にして、会社が危機管理広報として参考にすべき点を説明してみたいと思います。
7月24日に公式エンブレムを発表した直後から盗用疑惑の情報があったものの、審査委員会の代表が「他の商標との類似を避けるため(にデザインを練り直した)」と明らかにしたのは8月26日。
大会組織委員会が商標登録の調査をしたところ、劇場ロゴとは別の類似する商標が海外で見つかったことを理由に「原案を生かしつつデザインを修正するようデザイナーに依頼した」と組織委員会が記者会見で明らかにしたのは8月28日のこと。その際、エンブレムの原案のほか、修正、制作過程が発表されました。
両委員会の一連のコメントに共通している要点は「登録商標との類似を回避するための対処は済んでいる」ということです。コメントの内容からは、両委員会は「商標権侵害はないから、法的問題はない」という意識や姿勢で広報対応していたことが伺い知れます。しかし、この意識や姿勢が広報対応として大きな間違いでした。
また、公式エンブレムが著作権侵害か否か、という議論も法律の専門家を中心に起こりました。しかし、この議論も的を外れています。
公式エンブレムについて盗用疑惑と批判が生じた本質的な要因は、どこにあったでしょうか。
確かに表面的には、この問題を語る上では「商標権侵害」「著作権侵害」という法律的な議論が存在します。しかし、今回の盗用疑惑に関する批判が強まった理由は、違法の疑いがあったからというだけではないように思います。
「類似しているエンブレムやデザインが存在するのでは、公式エンブレムに創作性、分かりやすく言えばオリジナリティがないのではないか。そのような公式エンブレムをオリンピックの舞台で、日本を代表するデザインとして使用するのは恥だ」――。そんな思いが批判する人たちの心の中にあったからだと推察できます。
両委員会が「商標権侵害がない、著作権侵害がない、だから法律的に問題がない」ということをどんなに繰り返し広報したとしても、「類似しているように見えるデザインが存在する公式エンブレムに価値があるのか」という根本的な問いに答えられない限りは、危機管理広報としては失敗だったのです。
今回の両委員会の広報対応は、盗用疑惑の批判の本質を見誤ったのではないかと ...