第2次安倍政権が打ち出す成長戦略が景気や企業の活動に上向き感を与え、テレビドラマのヒットや2020年東京五輪開催決定に沸いた2013年。では来年、世の中の空気や人々のマインドをどのように捉え、企業活動に臨んだらよいか。そのキーとなる言葉やテーマについて、30代で同世代のクリエイティブディレクター、社会学者、編集者の3人が語り合い、「2014年の日本」を予見する。

佐々木▶ 私が編集長を務めている「東洋経済オンライン」は、2012年11月にリニューアルしました。既存のビジネス誌は、組織の意思決定者たる50代をメインターゲットに据えてきましたが、世代人口が減って販売部数にもかげりが見えてきました。そこで、オンラインメディアで新しい市場を切り拓いていくことになりました。個人的には、紙を読まない20代~40代前半の層向けのメディアを目指しています。
今回のリニューアルを経済界で使われている言葉を借りて表現すると「破壊的イノベーション」への挑戦だったと思っています。これまでにも「イノベーションのジレンマ」というキーワードとか小泉政権による古い政治の破壊などがありましたが、いずれも暗い印象ですよね。企業広報にも似たところがあって、取材に対するチェックが厳しくなり過ぎて、面白い話が出にくくなったなと感じています。以前は、もっと前向きというか、いろんな社内情報を集めてこちらの企画に乗って来てくれる広報担当者が多かったのですが、だんだんと官僚的な対応をする人が増えている気がします。
私が東洋経済オンラインでやりたいのは「壊して、新しくつくる」という“ポジティブな”イメージの破壊です。コストカットに終始するのではなく、明るくなりつつある時代に合ったイノベーションが世の中を面白くしていくのだと考えています。特に、「メディア」「教育」「医療」という3つが日本でガラパゴス化しているジャンルだというのが私の持論で、こういう分野に新しい潮流が出てくると良いなと思うのですが、いかがでしょう。
西田▶ 社会学と政策学を専門に、ネット選挙や地域振興などの研究と実務の仕事を続けてきました。佐々木さんが挙げたガラパゴス3分野に「政治」と「行政」も付け加えたいですね。
たしかに、日本の政治は壊れている部分もあるかもれませんが、イノベーションが経済や社会保障、あるいは政策過程には波及していません。また厳密には“破壊”というより“自壊”と表現した方が良いのかもしれません。高度成長期から約40年が過ぎて、昔のノウハウが生かせない社会環境になったにもかかわらず、その変化に対応できず、あるいは変化を拒んだために壊れていったという印象があります。
大手新聞社のように日本独自のビジネスモデルの宅配システムに救われて、まだ自壊に至っていないところもあります。テレビと新聞を支える日本独特のビジネスモデルは相当強いですね。両者は世界的に見ても、突出した存在です。しかし、メディア業界に身を置く人は、今のうちに一人でいろいろなことができる総合力を付けないと変化に対応できないのではないでしょうか。広告業界はどうですか。
倉成▶ 電通に務めて14年になりますが、当初はクリエーティブ局のコピーライター。それが、いつの間にか“一言では説明できないような仕事”を任されるようになりました。私がいた「電通ビジネスデザインラボ」の唯一のルールは、「これまでと同じことをしない」ということでした。電通が培ってきたさまざまなノウハウが役立つ新規事業を開拓するような部署です。自分では「21世紀のぶらぶら社員」と捉え、外の世界に踏み出してみて「伝える」「仕掛ける」といった部分が足りない分野がまだたくさんあることに気づくようになりました。相談事を解決していくうち、APEC2010(アジア太平洋経済協力会議)や東京モーターショー2011、IMF・世界銀行総会で、総合プロデューサーとして世界に向け日本をプレゼンテーションする仕事が舞い込むようになりました。コンセプトを決めて、デザイナーなど気の合う優秀な仲間を巻き込んでプロジェクトをプロデュースすることが多いです。
佐々木▶ 私はずっと紙媒体をやってきましたが、ビジネス系のようにスピードが求められる分野は、オンラインとの相性が良いなと実感しています。ただ、メディアの世界には、校正のプロや取材のプロといった“職人”は大勢いますが、編集力やマネジメント力まで兼ね備えたプロデューサー的な人材は絶滅危惧種です。大企業で縦割りが進むほど、そういう“わけがわからないけど面白い人”が育たなくなります。だからこそ、特定の分野を深掘りするのではなく、社内外のリソースを取りまとめ、関係ない業種の人たちともヨコのつながりを持ち、新しい視点からモノをつくっていく人が求められるようになると思います。
倉成▶ 編集には「どっちもわかる」「どっちも好き」という感覚が必要ですよね。水陸両用やハイブリッドというか。私は自分を異なるジャンルをつなげる「横串係」だと思っています。
この先、編集力のある人材をどのように育てていくのかは興味深いし、どの業界でも課題になりそうです。