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元「TVキャスター&内閣広報室審議官」が読み解く、あの危機の広報対応

発足から1年、トライ&エラー繰り返す原子力規制庁の危機広報

慶應義塾大学 特別招聘教授 下村健一

危機が発生したとき、その後の広報対応によって世の中に与える印象は大きく変わる。本連載では、ある時はメディアの立場で多くの危機を取材し、またある時は激動の時代の内閣広報室で危機対応を行った経験を持つ下村健一氏が、実際にあった危機の広報対応について説く。

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原子力規制委員会共同記者会見 (平成24年9月19日)
原子力規制庁がYouTubeやニコニコ動画の公式チャンネルを使って配信しているライブ映像。記者会見はもちろん、記者ブリーフィングや各種会合、さらに被災地視察の様子まで、説明を添えて公開している。各種資料、議事録なども公開するほか、ツイッターでも随時速報を発信。徹底的にオープンな姿勢を貫いている。

この連載のタイトル「危機の広報対応」という点で、日本政府の中で一番渦中にある機関は、原子力規制庁だろう。なにしろ、あの東電福島原発事故という最大の危機をきっかけに誕生し、そのまま未だに同じ危機と対峙し続けているのだから。平時を知らない"常在戦場"機関の広報スピリットは、一般企業にも大いに参考になりそうだ。

前史/負の遺産を引き継いで

原子力規制庁は、よくニュースに登場する「原子力規制委員会」(専門家5人で構成)を支える、500人規模の役人や技術者からなる事務局組織だ。

前身の原子力安全・保安院は、広報センス皆無の、古典的な官僚組織だった。3.11から半月くらい経ったある日のこと。当時私は内閣広報室の一員で、被災地向けの情報発信に忙殺されていたが、そんな最中、スタッフの1人がたまたま保安院のホームページを見かけて腰を抜かした。なんとトップページで堂々と、「原子力の明るい未来」という大見出しと共に、文字通り光り輝く原発の大きな写真が掲載されたままになっていたのだ。無神経にも、程がある! そのスタッフの指摘を受けて、さすがにこの時は保安院側もマズいと気付いてすぐに差し替えに応じたが、一事が万事。 彼らの"どう受け取られるか"の洞察を欠いた連日の判りにくい発信は、この初動の時期に原発事故説明に対するメディアの苛立ちを増幅させる、大きな要因となってしまった。

そんな"不安院"を廃止して新たに作る規制庁は、日本の政府機関の常識を覆すほど透明な広報体制を確立しないと、原子力問題に対する国民の深い深い不信感は、到底ばん回できない。官邸や関係閣僚の間では、そんな深刻な危機感、悲壮な決意が漂っていた。

この1年/会見の前・中・後

こうして"マイナスからのスタート"となった原子力規制庁の積極広報姿勢は、たしかに官庁としては際立っている。毎週の規制委員会の会議本体から、委員長や次長の定例会見、イレギュラーな会合まで、発足1年で実に417本のノーカットのライブ動画や速記録が、延々とホームページ*1に掲載されている。委員が3人以上集まって何か話したら、それはもう「会議」と見なして記録を残す、といった原則まである。

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