商品の魅力を伝えるパッケージデザインとは何なのか。パッケージ単体だけではなく、店頭やコミュニケーションと連携することで大きな成果を生み出すことができる。本稿ではその考え方の整理を行っていく。
「包む」「保護する」「運ぶ」、そして「魅せる」。この4つがパッケージの基本的機能といえそうです。最初の3つはパッケージの原初から存在し、現在に至るまで日々進化を続けている機能です。4つめの「魅せる」は、社会や流通の変化とともにその役割や考え方までが大きく変化しています。
アメリカからスーパーマーケットが、続いてコンビニが日本に導入されてから、高度経済成長の波に乗ってパッケージデザイン領域の中で、この「魅せる」=人をいかに魅了するかという機能が、パッケージデザイナーという職域を拡大させ、特化してきたという歴史があります。
経済成長期には、店頭で他社商品と比較されることで、自社の独自性や優位性をアピールしていく必要が出てきたため、店頭で声高にアピールする技を持つ媒体として、「物言わぬ宣伝マン」などと称して独自の存在感を放っていました。その時代、テレビCMを代表とするマスコミュニケーションを使って一時的に話題を拡散し、認知拡大を図り、パッケージとともに二人三脚で売り上げることを中心に動いていたように思います。
成長期が終わり技術の進化により、機能による差別化がほとんどなくなった現在、若者のテレビ離れやSNSに代表されるWebコミュニケーションの隆盛により、それまでの企業からの一方通行なコミュニケーションは受け入れられなくなってきました。
今の時代に大切な考え方
そんな時代に、パッケージデザインを考えるにあたって重要なことってなんでしょうか。
それは商品開発の段階から、どのようにお客さまとコミュニケーションをとっていくのかを視野に入れて開発を行っていくことです。これまでもお客さまへ向けて製品の独自性や優位性を伝えることはもちろん行ってきていましたが、それが一方的で独りよがりなものではなく、どのように実感や経験を伴った価値として認知してもらえるのか、パッケージデザインを起点として全体のコミュニケーションを計画することが重要だと思います。このことは、単に話題化できる特徴を持った商品やパッケージをデザインする、ということとは違います。
商品開発の段階から、①どこでどうやって売るのか?②誰にどのように感じてほしいのか?③どのような媒体を使い、どうコミュニケーションをとっていくのか?を考え、パッケージデザインとコミュニケーションデザインを同時に進めることが重要です。そうして、売場や媒体と連動して相乗効果を発揮する、パッケージデザインを起点としたトータルコミュニケーションをつくり、全体設計の中でパッケージデザインに担わせる役割分担を考えてデザインをしていくのです。
パッケージで伝えたいこと、パッケージでしか伝えられないことを絞ることで、より強い訴求力が生まれてきます。
さらに最近の傾向として、若年層においては、少しでも企業色を感じられるメッセージには嫌悪感さえ抱く傾向があります。彼らは、友人に代表されるような自分たちの意思で共感できると考える人の口コミや自分の目や耳や行動で判断した情報を何よりも大切にします。いくら企業の商品開発のストーリーや独自性を声高に伝えても、かえって逆に作用することになりかねません。お客さまにとって、受身ではなく能動的で共感性を持ったコミュニケーションをつくっていくことが大切なのです。
もうひとつ、パッケージ開発においては特に注力すべき点として、お客さまが直接手に取ることができる、という点があります。CMやWeb媒体などはそれぞれに優れたコミュニケーション効果がありますが、手に取ることはできません。店頭で、そして購入後、実際手に取ることで生まれるお客さま自身の経験に基づくコミュニケーションほど他にない強さを発揮します。お客さま自身が体感、体験した価値こそが、たとえ小さなコトであっても記憶に残り、蓄積されていく価値なのだと思います。
では、そのような事例を私も審査員を務めた「日本パッケージデザイン大賞2021」の入賞作品から見ていきましょう。
サントリー緑茶 伊右衛門(大賞受賞作品)
独自の技術で成功させた「淹れたてのきれいな緑色」。この緑色を体験してもらうための...