人の目をひく上で、イラストレーションの活用は重要だ。イラストレーションが気に入ったために購入されることもある。ここでは、発注の際に活かせるイラストレーションのディレクションについて解説する。
「瞬時に心惹かれて」「大切な人の喜ぶ顔を想像して」「手元に置いておきたくなって」─思わず手に取ってしまうデザインと出合ったとき、わたしたちにはたとえようもない「心の動き」がうまれます。
人に贈るものか、自分へのものか、購入の理由やきっかけは様々ありますが、実際に「買う」というアクションを起こさせるにはこの「心の動き」が重要です。通りすがりの店舗で目をひいたり、流れるSNSの情報で瞬時に心をつかんだり、日常の一瞬一瞬で人の心を動かすことがパッケージのデザインにも求められています。
そして心を動かした商品が、購買者の生活や想いにリンクすることによって生まれるストーリーは唯一無二であり、その体験や記憶こそが、最終的にブランドとしての価値につながっていくのではないでしょうか。
商品の顔となるパッケージのデザインは、形状や素材、ネーミング、キャッチコピー、タイポグラフィ、カラー、写真、イラストレーションなど、構成する上での表現手法が多種多様ですが、昨今その中でもイラストレーションを起用した商品を特に多く見かけるようになりました。
傾向としては、イラストレーションを主役としたデザインに仕立てられているものや、シリーズ化など複数展開することでブランドのアイデンティティーになっているものなど、イラストレーターの作家性を全面に出して他の商品と差別化しているものが多いように感じます。また実際にTwitterやInstagramで「#パケ買い」や「#パッケージ」というハッシュタグをたどるとイラストレーションがあしらわれた商品が多く見られ、イラストレーションの効果によって心をつかまれている人がたくさんいることもうかがえます。
イラストレーションは、文字の説明だけではわかりづらい商品の特性を瞬時に伝えたり、つくり込まれた世界観がブランド認知につながることで長く愛されたりと、商品の魅力を瞬発力と持久力をもって演出するのにも長けた存在。
そんなイラストレーションの特徴や魅力を知って効果的に使うことで、ターゲットの心を動かし、商品ひいてはブランドの価値を高めることができるでしょう。
本稿では、「心を動かす」イラストレーションのディレクションのポイントを、拙著『たのしく、イラストディレクション!』(ビー・エヌ・エヌ刊)より抜粋してご紹介します。
1 イラストレーションの役割「解説」と「演出」
ディレクションをするためにはまず、イラストレーションの役割を理解していることが必要です。仕事で用いる場合の役割には、主に「解説」と「演出」の2つがあります。
1-1.「解説」
文字情報だけでは伝わりづらいものを、より理解しやすくする「解説」。目に見えないものを可視化して理解をサポートしたり、重要なポイントを視覚的に強調したりと、見た人に瞬時に商品の特性や効能を伝えることができます。
1-2.「演出」
伝えたいイメージや世界観を引き立て、より心に響くものにする「演出」。商品の“顔”として強く印象づけたり、写真では表現できない世界をつくり上げることができたりと、わたしたちの心を動かす大きな要因のひとつとなります。
2 イラストディレクションのポイント
よりよいものづくりをするためには、商品企画・開発担当者やデザイナー、イラストレーターといったパートナーのことを深く理解し、お互いの力がより発揮できる環境をつくることが大事です。「ディレクション」は一方的に指示を出して制作を進めていくという意味ではありません。一緒にゴールを目指す「パートナー」という対等な関係を築ければ、ひとりでは見ることのできない景色を見ることができるでしょう。
2-1.商品の方針やコンセプトを明確にする
イラストレーションの力を商品で最大限に発揮するには、見た人にどんな気持ちを抱いてほしいのか、どんな行動をとってほしいか、目的を考えることが重要です。デザインに...