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青山デザイン会議

「集める」のその先へ収集欲を刺激するデザイン

アートや雑貨、スニーカーに時計……。あらゆるモノにはコレクターと呼ばれる人がいて、今やその領域はリアルのみならずバーチャルの世界にまで広がっています。今回集まってくれたのは、累計来場者数37万人以上、2017年にスタートした日本最大級の文具の祭典「文具女子博」の企画・運営を行う、日販セグモの大山真央さん。グラフィックデザイナーとして活躍する傍ら、自身が集めた海外のフォークアートやスーベニアを展示・接客・販売するイベント「個物」を開催、『C級スニーカーコレクション』(グラフィック社)などの著書もある永井ミキジさん。2021年4月、約140万円で落札され話題となった日本初のNFTバーチャルスニーカー「AIR SMOKE 1」を発売、3Dテクノロジーの開発やバーチャルコンテンツのプロデュースを手がける「1SEC」Founder&Presidentの宮地洋州さん。シェアやサブスクなどモノを持たない時代のコレクター事情、そして「集める」行為の先にある新たなクリエイションを探ります。

3個だって1000個だってコレクション

宮地 ロサンゼルスと東京を拠点に、AI、ブロックチェーンやxRに関する事業を行う「1SEC」という会社を運営しています。NFTを使ってデジタルデータの唯一無二の価値を証明し、それをブロックチェーン上で管理するソフトウェアや、バーチャルスニーカーや3Dアバターといったコンテンツの開発を手がけています。

大山 私たち日販セグモは、宮地さんとは逆でリアルな場というか、アナログなモノを扱っていて、2017年から全国各地で「文具女子博」という文具の即売イベントを企画・運営しています。

永井 本業はグラフィックデザイナーなのですが、今は古物コレクターという肩書きでも活動しています。元々、何十年もコレクターをしていて、たとえばスニーカーなら、日本に入ってこないマイナーなものばかり1000ブランド以上も。モノが僕を追い越したというか、家じゅう全部がモノに覆われて、最終的には手放さざるを得なくなってしまったと(笑)。

大山 1000足じゃなくて、1000ブランドはすごいですね……。

永井 サイズもちっちゃかったり、大きかったり、履けるものもほとんどなくて。

宮地 素晴らしい(笑)。僕もスニーカーオタクなので、すごく共感します。集めているのはメジャーなブランドですけど。

永井 僕も本当はそっちが大好きなのですが、若い頃はなかなかお小遣いで買えなくて。でも、バーチャルスニーカーは加水分解しないからいいですよね(笑)。

大山 古物ではなく「個物」というのは?

永井 僕が個人的な趣味趣向で集めた海外のフォークアートやスーベニアを中心とした古物コレクションのことで、それを一気にお披露目して自ら接客・販売するイベント「個物」を開催しています。

大山 文具女子博のお客さんも、永井さんと同じように、ペンとかマスキングテープとか万年筆のインクとか、アナログなモノを集めることを楽しんでいます。最近ではシェアやサブスクが登場してモノを持たないなんて言われますが、イベントを見る限り、その熱量は全然収束していなくて。

永井 SNSやネットの発達で、コレクションというものが変わってきたのは感じますね。昔はモノでも音楽でも映像でも、持っているかどうかが重要だったけれど、今は知っていればOKみたいな風潮もあって。

宮地 一方で、デジタルが発展すればするほど、味のあるものというか、心のスイッチを押してくれるコレクティブアイテムを求める。僕もいまだに鉛筆とか消しゴムが好きだし、最近は音楽もデジタルで聴かなくなって、アナログレコードを集めています。

大山 手間がかかるとか、不便なところが逆にかわいいみたいな。

永井 1000ブランドなんて言いましたが、実は数ってあんまり関係ないと思うんです。本人が自分の意思で買って楽しんでいるんだったら、3個でも1000個でもコレクション。僕の場合は、新しい色とかデザインとかギミックとか、見たことのないものが見たいという感覚で集めていて。

大山 文具女子博で扱っているアイテムは、驚きの機能があるというよりは、どちらかというとデザイン重視。持っているとときめく、みたいなものが多いですね。常に持ち歩いたりデスクに置いたり、それを見て癒されるとかテンションが上がるような。

永井 文具って、実際に使えるというのが保険になっていますよね。モノを持たない時代でも豊かに生きていこうよ、という世の風潮にも合っているのかも。

大山 あとは、キャンパスノートとか、定番文具のデザインをモチーフにしたキーホルダーとかピンバッジとか。「これ使ってたな」とか「懐かしい」といって買う方も結構いらっしゃいますね。

    MAO OYAMA'S WORKS

    文具女子博
    2017年12月にスタートした、“ 見て・触れて・買える” 日本最大級の文具の祭典。累計来場者数は37万人以上、全国各地でのポップアップも多数。12月14日からパシフィコ横浜で「文具女子博2023」を開催。

コレクターの世界は女子が熱い?

永井 僕、昔のサンリオとかファンシーなものも好きで、小・中学生の流行を探るために、商店街や町内会のローカルなフリーマーケットにも出店するんですよ。

大山 どんなものを売っているんですか?

永井 鉛筆や消しゴム、筆箱など文具がメインですが、あるとき、ひとりの女子小学生が鉛筆を箱買いしたんです。「これ、いいやつだから高いよ」と言ったら、「彼氏の誕生日なので大丈夫です」って。自分用には2~3本しか買わないのに、彼氏へのプレゼントにはお金を使う。そういういいシーンが見るのが好きで。

宮地 出品するモノが尽きることは?

永井 常に集めているので、ここは半年に1回、ここは1週間に1回、3日に1回みたいに定期的に買いに行く場所があって、開催場所に合わせてバランスを取っています。個物は特にテーマもないし、一見まとまりなく見えますが、選んだ人の匂いがつくというか、やっぱり僕が集めているのでどこかフィルターがかかっている。

大山 文具女子博では、「わたし彩る文具アトリエ」とか「文具ティーパーティー」といったテーマを設けていて、メーカーさんにはそれに合わせて限定品をつくってもらえるようにお願いしています。やっぱり、ずっと同じだと飽きられてしまうので。

宮地 来場者は圧倒的に女子ですか?

大山 9割ぐらいが女性で、メインは20代から40代。2022年は5日間で3万8000人が来場しました。ありがたいことに、ほかの地域でも開催してほしいという声が多くて。

永井 個物のお客さんも、7割以上が女性。コレクターの世界って男性が多いのですが、女性の方が潔いし決断が早い。

大山 入場料を払っているんだし、せっかくならたくさん買わなくちゃという意識が働くんですかね。最後に一括でお会計をするのですが、カゴがパンパンになっている方もたくさんいます。

永井 それは危険(笑)。今の20~30代の女子のコレクターって、キティちゃんだと何年代がいいとか、無名なキャラに絞って集めているとか、突き詰めていてシビア。ネットオークションも通販もフリマも店も全部使って集めている。まだ掘り起こされてないジャンルも女子の方が多いからか、パワーがありますね。

大山 文具女子博では、InstagramとXに限定品や先行販売品の情報をあげていて、会場に着いたらまずそれを目がけて買いに行く、といった流れができていますね。

宮地 地方会場でしか買えないものも?

大山 はい。たとえば、金沢なら金箔を使ったデザインのマスキングテープとか、仙台ならずんだ餅柄のノートとか。ご当地系の商品を求めて、全国から遠征してくる方もいらっしゃいますね。

永井 過去に売っていたグッズも今後、価値が上がっていくんじゃないですか?

大山 今7年目なので、いずれ復刻とかができたら・・・

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