日本国内で少子化が進む一方、学びの形はますます多様化し、独自の方針やカリキュラムを打ち出す学校やスクールが数多く生まれています。
今回集まってくれたのは、クリエイティブ集団「PARTY」を率いる傍ら、2023年4月、徳島県神山町に新設された「神山まるごと高専」で、カリキュラムディレクターを務める伊藤 直樹さん。大阪教育大学附属平野小学校の副校長時代には、文部科学省の研究開発指定校として新たな教育の形を探る新教科「未来そうぞう科」を創設し、2023年4月、埼玉県東松山市に開校したオルタナティブスクール「アメージングカレッジ」で校長を務める岩﨑 千佳さん。OECDから世界で最も優れた教育施設として認定された「ふじようちえん」や、内閣構造改革特区に指定された「瀬戸SOLAN小学校」をはじめ、多くの教育施設の設計を手がける建築家の手塚 貴晴さんと手塚 由比さん。
それぞれが描く、日本そして世界を変える未来の教育とは?




テクノロジーとデザインと起業家精神。全てが学べる高専を神山に(伊藤 直樹)
空間や環境が、学びをつくり出す
岩﨑:今年の4月、埼玉県東松山市に小・中学生を対象にした「アメージングカレッジ」を開校しました。ベースになっているのは、私が大阪教育大学附属平野小学校に勤めていたときに創設した新教科「未来そうぞう科」。学校というより、新しい概念を生み出す教育の実践研究機関と捉えています。
伊藤:同じく今年の4月、徳島県神山町に「神山まるごと高専」を新設しました。全寮制で学費は全て無料、特徴はテクノロジーとデザインと起業家精神の全てが学べること。私はカリキュラムディレクターとして、その構想を「神山サークル」という形で言語化しています。
岩﨑:神山、いいところですよね。
伊藤:最高ですよ。「神山といえば地方創生」といわれるくらい面白いまちづくりをしていて、企業のサテライトオフィスがあったり、ブリュワリーがあったり。外国人移住者も多くて、本当に「ここはいったいどこなんだろう?」と感じるくらい。
岩﨑:都会と田舎で交換留学できる学校をつくりたいと考えていたので、すごく憧れます。手塚さんが設計された「ふじようちえん」にも、以前視察に行かせてもらって。
手塚(由):ふじようちえんは、円形の校舎の屋根の上にデッキがあって、ぐるぐる走り回れるんです。下には教室があるのですが、壁がなくて、隣の教室にも行けるし、いろんな音が聞こえてくる。
手塚(貴):キャンプファイヤーと同じで、楕円の力なんですよね。真ん中に何もないからインタラクティブに繋がることができる。普通、教室は四角じゃないといけないとか、壁がないといけないなんて考えてしまいますが、園長先生が面白い人で、私たちに勝手なことをやらせてくれる。
手塚(由):「子どもがいなくなっても、丸いから戻ってくるので大丈夫」って(笑)。
伊藤:私は大学でもデザインを教えているのですが、子どもたちがデザインとエンジニアリングを一緒に学べる場がつくれないだろうかと、ずっと考えていたんです。そんなとき、営業DXサービスを手がけるSansanのCEO、寺田親弘さんと意気投合して、設立準備を始めました。創業メンバーは全員現業を持っていて、ほぼプロボノ。両方本気でやるぞという意味を込めて、「ダブルフルコミット」なんて言っています。
岩﨑:私たちは、去年の5月、まだ何も決まっていない段階で見学会を開いたのですが、参加した子どもたちから「次いつ来れるの?」と言われて。そこから急いで名前を決めて、ホームページをつくって、プレ開校にこぎ着けました。「はよやってよ!」と、子どもに背中を押されて始まったのが"アメカレ"なんです。
手塚(貴):座談会が始まる前に話を聞いていたんだけれど、成績表はコースターにいいところを書いて渡すんですよね。
岩﨑:はい。学校をつくるというと、カリキュラムをどうするか、授業はどうするかというように、コンテンツベースになりがち。でも新しいものってカオスの中からしか生まれないという想いがあったので、今は時間割も教科も全部取っ払って、とにかく既成概念をぶっ壊そうって。
手塚(由):時間割もないんですね。
岩﨑:あるとき、子どもたちが「時間割を決めたらいいんじゃない」と言うので、試してみたら、初めてもめごとが起きずに過ごせたんです。「うまいこといったわ!」と思っていたのですが、ある子が「ちゃんとした学校になった」と言っているのを聞いて、待てよと。これまでの学校とは違うものをつくりたくて始めたのに、あかんって(笑)。
伊藤:空間や環境が学びをつくり出すというのは、まさにその通りだなと思いますね。
岩﨑:学びが生み出される環境があれば、子どもたちは自分からどんどんそれを広げていきます。ただ、常に変わっていくので私たちもついていくのに必死で、「アメカレっていったい何者なんだろう」と、常に問い続ける毎日です。
NAOKI ITO'S WORKS






神山まるごと高専
2023年4月、徳島県神山町に開校した私立高等専門学校。左上はカリキュラム構成の概念図「神山サークル」。テクノロジー×デザイン×起業家精神を教育の土台に、社会を動かす人材の育成を目指している。
何かを発見する段階が一番面白い
手塚(貴):東京・立川にある「PLAY!MUSEUM/PLAY!PARK」という施設の館長をしているのですが、そこには直径25メートルの大きなお皿をつくったんです。子どもたちは、その上で勝手に走ったり飛んだり。
手塚(由):コンサートをすることもあって、私も寝転びながら聴いていました。
手塚(貴):子どもってクラシックが嫌いというけれど、音楽が嫌いなんじゃなくて、番号の付いたイスが嫌いなんですよね。重要なのは「自分で選ぶ」ということ。これは私たちが設計をするうえで、一番大事にしている考え方でもあります。
伊藤:中学の美術の教科書には「デザイン」という言葉がほとんど出てこないんです。つまり、高校で美術を選択しない子は、デザインとはそもそも何かがわからないまま大人になってしまう。神山まるごと高専では、デザインもエンジニアリングも一通り学んだうえで選択してほしいと考えていて。
岩﨑:学校の授業って、「大人になったとき、こういうスキルが身に付いていたらいいだろう」という考え方でつくられていますが、物事を発見するという一番面白い段階を取っ払っちゃっている。
伊藤:日本では、高校1~2年生で文系・理系を選択しますが、捨てるものが多いと感じています。高専の場合は5年間ありますし、受験勉強に追われることなく、集中してものづくりに励むことができる。
手塚(貴):日本の教育は、詰め込むことがいい教育で、エリートをつくることが大事だと思っている。それを本来の姿に戻そうとしているのが、伊藤さんや岩﨑さんがやっていらっしゃることなのかな。
伊藤:カリキュラムディレクターとしては、もちろん授業以外のことにも力を入れていて、サマースクールを企画したり、給食もできるだけ地場で採れた食材を使って、自給率のパーセンテージまで出したり。
岩﨑:アメカレの昼食も、最初はおにぎりだけだったのが、近くのオーガニック農家さんが毎週野菜を届けてくださるようになって、「このキュウリは、どう切ってほしいのかな?」なんて言いながら料理しています。
伊藤:食堂も、昼と夜の時間しか使われないのがもったいないと思って、何かが起こることを促すつくりにしています。玄関と一体なので人が入ってきたり、イベントが行われたり、夜はゲームをやっている子や、ヘッドフォンをして勉強をしている子もいる。部屋でやればいいのにとも思うのですが、それも嬉しくて。
手塚(貴):食は重要ですよね。福岡県北九州市で、生活困窮者の救護施設やコミュニティスペースをつくる「希望のまちプロジェクト」に関わっていますが、そういう施設って、どうしても食べ物は最低限でいいという発想になってしまう。それがよくないなと思って、ミシュランの星を取ったシェフを呼びたいと考えています。うまいものを食べると、世の中捨てたもんじゃないと思えるじゃないですか。