コピーライターは、かつて、あこがれの職業と言われていた。
彼が会社に入る少し前のことだった。クルマの窓がスーッと開いて、井上陽水さんが「お元気ですか~」と言っていた。なんだ、これは?彼は、戸惑った。これはクルマのCMか?いまなら「最高にバズったCM」と言われるのだろう。日本中が、陽水さんの声色を真似ながら「お元気ですか~」とやっていた。
ただ彼の頭の中では、呪文のようなもうひとつの言葉がぐるぐる回っていた。「くうねるあそぶ。」。言葉が、すこーんと抜けるような自由を連れてきた気がした。あー、生き方を売っているのかも、とぼんやり思った(落語の寿限無に「くうねるところに……」という一節があることに彼が気づくのは、少し後になってからのことだ)。
コピーライターは、かつて、あこがれの職業と言われていた。
コピーのコの字も知らないまま会社に入った彼は、勉強をはじめた。「おしりだって…
あと60%