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青山デザイン会議

「怖い」気持ちをデザインする方法

大垣ガク、清水 崇、日比 健

ホラー映画にお化け屋敷、心霊スポットにいわくつきの呪物……。今回の青山デザイン会議は、夏にぴったりのこのテーマ。集まってくれたのは、クリエイティブディレクターとして多くのブランドや広告のデザインを手がけるほか、東京・大阪で延べ2万人以上の来場者を集めた「祝祭の呪物展」をはじめ、ホラーとポップカルチャーを繋ぐ事業を展開する「アシタノホラー」代表の大垣ガクさん。

ハリウッドでリメイクされた『呪怨』シリーズほか、『恐怖の村』シリーズなど人気ホラー映画を数々手がけ、8月11日には新作『ミンナのウタ』が公開となる映画監督の清水崇さん。

2012年、東京・方南町の住宅街でお化け屋敷「オバケン」をスタート、1泊2日の「ゾンビキャンプ」をはじめ、全国さまざまな場所でホラーイベントをプロデュースする日比健さん。

今回は、いくつもの偶然が重なりオバケン「畏怖 咽むせび家」での撮影が実現、しかも同所では『ミンナのウタ』のコラボイベントが開催予定とのこと。何かに引き寄せられるように集まった3人が、「怖さ」の本質に迫ります。

なぜ人は、恐怖を求めるのか

大垣:普段は「アシタノシカク」というデザイン会社で、ブランディングや企画の仕事をしているのですが、うちの会社にホラー映画が大好きな子がいて、血みどろのシーンを観ながらご飯を食べるらしいんです。

清水:出た!たまにいるんですよ(笑)。

大垣:最初は引いていたのですが、あるとき、うちのオフィスにあるギャラリーのような空間で「アシタノホラー展」という展覧会をしたんです。そうしたら、これまでの展示とは比べものにならないぐらい人が押し寄せて。2022年からは「祝祭の呪物展」をスタートして、大阪と東京で延べ2万人以上を動員しました。

清水:僕もちょこちょこ目にしていて、すごいことを考える人がいるなと。

大垣:呪物展では、田中俊行さん、はやせやすひろさんという日本を代表するコレクターが所有する"スター呪物"を中心に、40点ほどを展示しました。これで『ブレーン』に出たらホラーの人になってしまう……とも思いつつ、人間にはホラーやオカルトが必要だというのがわかったので、全力でサポートしていきたいと思っています(笑)。

日比:東京・方南町の住宅街にある一軒家で、2012年から「オバケン」というお化け屋敷をやっています。元々、映画が好きで、MVのディレクターをしていたのですが、今の会社のオーナーが変わった人で「映像とは違うことで商売をしてみたら」って、何も決まっていないのに場所を借りてきたんです。最初は、町ごと遊園地みたいになったら面白いなんて妄想から始まって、ホラー好きも高じてお化け屋敷に。ノウハウも全くなしで始めたのですが、意外にもメディアの方がたくさん取材に来てくれて。

清水:監督を務めた映画『ミンナのウタ』が8月11日に公開されるのですが、プロモーションの一環でオバケンさんにコラボをお願いしていたので、今日お話できると聞いてびっくりしました。

日比:映画好きなので、やってて良かったと思いましたね。お化け屋敷って、ゴールに向かって進むウォークスルー型が一般的ですが、僕らは映画のような体験をしてもらいたいので、自由に動ける。かくれんぼ的な要素と、脱出ゲーム的な要素があって。ここ「畏怖 咽び家」は、予約をしようとすると、まず架空の不動産屋のページに飛ばされて、待ち合わせにスーツを着た営業マンがやってきてストーリーが始まります。

清水:苦手な人が聞いたら、なんでそんな手が込んだことをって思いますよね(笑)。僕は昔は、怖いものを見ると眠れなくなるくらい神経質な子でしたが、中学生のときに友だちに誘われて、VHSで海外のホラー作品を観るようになったんです。

日比:元々ホラー好きではないんですね。

清水:はい。助監督をしながら通った映画学校で3分の映像の課題があって、サスペンスの脚本を書き直しているうちにホラーになってしまった。映像をつくって提出したら、黒沢清監督や高橋洋監督がべた褒めしてくれて、「すぐに撮った方がいい」って、紹介してもらったのがきっかけ。まさかそこから20年以上、ホラーばかりつくることになるとは思っていなくて、今もコメディが撮りたくて仕方ない。

大垣:そういえば、楳図かずおさんも「笑いは恐怖の1ジャンル」と言っていました。

清水:そうそう、恐怖は笑いと表裏一体。これはやりすぎじゃない?と思いつつも仕上げてみると、怖がる派と大爆笑する派に分かれるように、一歩間違うと笑いになる。そもそもホラーを楽しめるのって、いかに普段、自分たちが安全なところにいるのかという表れでもあると思うんです。恐怖を娯楽にまで仕立てるのは人間しかいない。わざわざ怖い刺激までつくって、本能の部分を埋めようとしているというか。

大垣:実際、人間は太古の昔は小さなネズミのような存在で、逃げたり隠れたりしながら恐怖とともに生き抜いてきた。その根源的な部分が満たされるというか、生きている実感がわいてくるのかもしれませんね。

日比:日本は平和だけれど、戦争がある国でもホラーが流行るのかな、なんて考えてしまいますよね。

清水:平和って、続くと退屈なんですよね。極端ですけど、極楽と地獄だったら地獄の方がずっと刺激がある。どっちもあるからこそ生きている感覚を得られるというか、それが一部尖ると、怖さを求めることに繋がる気がします。

日比:でも、普段から怖いものをつくっていると、それに慣れてしまいません?

清水:そう、僕は何を見ても笑っちゃう。

日比:僕は刺激を求めて、アフリカの部族の村とか、危なっかしいところによく行くんです。今年の春にバングラデシュに行ったときも、夜に墓地を歩いていたら若者に声をかけられて、ついていったら青龍刀を突きつけられて「マネー、マネー!」って、お金もパスポートも全部取られちゃった。

清水:うわ。引き寄せたんですね(苦笑)。

日比:結局、犯人は捕まって現地のニュースにもなったんですけど。画像を見たら、僕が着ていたTシャツの胸には、刃物を持った殺人鬼のイラストと「NO HORROR,NO LIFE」って描いてあった(笑)。

大垣:そういうガチの恐怖を味わったことが、演出にも影響するんですか?

日比:具体的にはないですけど、人が人を殺そうとするときの顔とか、全てを失った絶望感とか、参考にはしたいですね。やっぱりインプットしないと出てこないので。

大垣:芸人さんと同じで、これはネタになるかも、みたいな。

日比:はい。そんな目に遭ったら、普通は「もう海外なんて行けない」ってなると思うのですが、僕の場合は笑っちゃうんですよね。ウケるんだけど、って(笑)。

    GAKU OGAKI'S WORKS

    祝祭の呪物展 主催・企画/アシタノホラー監修/Apsu Shusei
    オカルトコレクター 田中俊行氏、都市ボーイズ はやせやすひろ氏が所有する数百を超える呪物コレクションの中から約40点を展示するほか、『呪物本』や「呪いのバグTシャツ」などオリジナル呪物グッズも販売。東京・大阪で延べ2万人以上の来場者を集める。8月6日まで札幌PARCOスペース7でも開催中。

    アシタノホラー®シンボルマーク&ロゴ

    映画『MADGOD』コラボグッズ

    映画『呪呪呪』コラボグッズ33種"呪"ステッカー

    GREENIA ブランドデザイン+広告デザイン

    ノーベル製菓「サワーズ」キャンペーン 広告+グッズデザイン
    KAMEKAME SOURS 2022 Spring&Summer Collection

    朝日放送 VI アートディレクション+広告デザイン

    関西テレビ VI+ブランドCM

    京都水族館 シンボルマーク+広告デザイン

    KIKICOCO ブランドデザイン+プロダクトデザイン

デザインの力で、ホラーを身近に

日比:清水監督は恐怖の演出を、どういうふうに考えているんですか?

清水:ホラー映画のワンシーンで、何か怪しい音がしたら、怖くても見に行かないとストーリーが展開しないじゃないですか。でも、たまに「行かなきゃいいのに……ホラーだし何でもありか?」みたいなことを言う俳優さんがいて閉口するんです。その心情で演技をしてもお客さんに伝わってしまうし、スタッフや共演者、作品にも失礼。「確認しない方が怖いから」っていう心情と空気感を一緒につくるのが大切なんだ、って説くんですけど。

大垣:そういうシーン、よくありますよね。

清水:あとは、お笑い番組やコント番組を観ていて、「これ、ひとつ間違えたら恐怖になるかも」なんて思いつくことはありますね。たとえば、ただアイドルにサインを求めてキョロキョロしている人の動きが異常に見えるとか。

大垣:恐怖から笑いが生まれるのは想像していましたが、笑いをずらしたら恐怖になるというのは面白いですね。僕は『ミンナのウタ』を試写で観て、亡くなった少女のお母さんの演技が一番怖かったのですが、あれって笑いでいう「天丼」ですよね。

清水:そうですね。日常が反復し始めるのって怖いと思うんです。最初は普通だな、あれでもちょっとおかしいぞ、変だぞ……って違和感を重ねて。笑いだったら、1回目2回目があって、3回目でボ...

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