IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

青山デザイン会議

サステナブルと伝統が循環するミラノサローネ

イタリア・ミラノで開催される世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」と、その中心的な存在として知られる「ミラノサローネ国際家具見本市」。61回目となる今回のサローネは、4年ぶりに4月に開催され、世界中から30万人以上が訪れるなど大きな盛り上がりを見せました。集まってくれたのは、照明デザイナーとして数々の企業とともにサローネに出展し、今回は川島織物セルコンのEvolutionary Specimen of fabrics(織物進化標本)」でアートディレクターを務めた岡安泉さん。2010年から毎年出展を続け、「Karimoku Case Study」をはじめ各コレクションを統括する、カリモク家具 副社長の加藤洋さん。「TATAMI ReFAB PROJECT」で、若手デザイナーの登竜門「サローネサテリテ・アワード」のグランプリを受賞したデザインラボ「HONOKA」の鈴木僚さん、原田真之介さん、ビューリー 薫 ジェームスさん。エネルギーの再利用やリサイクル、持続可能性にフォーカスした新しいグリーンガイドラインが発表されるなど、進化を続けるミラノサローネの今を語ります。

日常が戻った、サローネらしいサローネ

加藤:私たちカリモク家具が、単独でミラノサローネに出展し始めたのは2010年から。それ以来、継続して関わっていて、今年は本会場のロー・フィエラほか、ミラノ市内各所で開催されるフォーリサローネでも2カ所、それぞれ違う展示を行いました。

岡安:僕も同じく、本格的に関わるようになったのは2010年ですね。それから照明デザイナーとして、さまざまな企業やメーカーの展示のお手伝いをしてきて、今回は川島織物セルコンさんのブースのデザインをさせてもらいました。

原田:HONOKAは、22歳から35歳まで、それぞれバックボーンの異なる6名のデザイナーで構成されたデザインラボです。私はカシオ計算機でプロダクトデザイナーとして勤めたあと、今はTM INC.というデザイン事務所で家電や雑貨のクライアントワークをベースに活動しています。

鈴木:前職は東芝で家電やインフラ関係のデザインをしていました。現在はヤマハでインハウスデザイナーを務める傍ら、個人活動としてHONOKAに参加しています。

ビューリー:僕は、ハーズ実験デザイン研究所で家電のデザインに関わったあと、TOTOに転職して浴室関係のデザインに携わり、3年前からフリーランスとして活動しています。ほかにも所属はさまざまですが、3Dプリンタの研究開発を行うExtraBoldで働く3名のメンバーがいます。

加藤:私たちは今回、建築家の芦沢啓治さんとデンマークのデザインスタジオ、ノーム・アーキテクツと立ち上げた「Karimoku Case Study」というコレクションのほか、「Karimoku New Standard」や「MAS」「石巻工房 by Karimoku」をまとめて展示したKarimoku Commonsのポップアップショールーム、そして、Zaha Hadid Designと一緒につくり上げたチェアとテーブルなども出展しました。

岡安:僕がデザインした川島織物セルコンさんのブースは、彼らが開発した4種類のテキスタイルを美しく見せつつ、ちょっと驚くような状況をどうつくるかがテーマ。最終的には、過去のアーカイブを一辺の壁で紹介し、それ以外の壁は黒い布を垂らしてホリゾントの状態にして、単一の光源から光を当てることで、テキスタイルの凹凸が際立つようにしました。

鈴木:HONOKAが出展した「Tatami Re-FAB PROJECT」は、畳の原料であるい草と生分解性樹脂を混ぜた素材を開発して、3Dプリンタで家具をつくるプロジェクトです。

ビューリー:6人のメンバーがデザインした7つの作品を、35歳以下の若手デザイナーを対象にした展示スペース「サローネサテリテ」に出展しました。

鈴木:展示ブースはもちろん、Webサイトや動画など、コミュニケーションの部分までしっかりやろうというのが、今回のプロジェクトでこだわったこと。原料になるい草はイケヒコ・コーポレーションさん、材料開発のための機材提供や製造はExtraBoldさんにご支援いただきました。

岡安:おそらく皆さん感じているとは思いますが、今回一番きつかったのは、物価や施工費がとんでもない上がり方をしていたこと。今までの感覚からすると、これしかできないの? という感じで。

ビューリー:施工会社がまず相手にしてくれなくて、見積もりすらも取れない。現地のIKEAで買ったテーブルを並べて、壁も自分たちで塗って、何とかやりくりしました。

原田:会場の床に敷いたい草も、検疫で引っかかるので手荷物で持ってきてもらって。

加藤:円安も続いていますし、長年出展している私たちからすると、こんなにも日本は貧しくなったのかと痛感しました。サローネ全体についての話をすると、賑やかさもずいぶん取り戻して、世界中から多くの人が集まる、サローネらしいサローネだったという印象です。

岡安:話を聞くと、皆さん「やっと日常が戻ってきた」と言っていましたね。ここのところ、僕はあまりサローネに関わることがなかったのですが、川島織物セルコンさんに声をかけていただいて、ついつい2年続けて行ってしまいました。

加藤:昨年は、コロナの影響も大きかったですよね。ただ、ソーシャルディスタンスを促す会場内のサインひとつをとっても自発的に行動を起こしたくなるデザインがされていて、そうした気遣いに感銘を受けたという話を聞きました。

原田:僕は昨年、サローネサテリテに個人で出展していたんです。ただ日本人はほとんどいないし、本当に元気がなくて……。

加藤:事務局の方も「コロナという厳しい時期に出展してくれた人たちのことは、ものすごくリスペクトしている」と話していたので、きっといいことがあると思いますよ。

原田:今年はいいことありました(笑)。

加藤:グランプリ、おめでとうございます。私はサローネに行った年は必ずサテリテを見るようにしているのですが、HONOKAさんの作品は際立っていて、同じ日本人としてすごく誇らしくて。

ビューリー:そう言っていただけると嬉しいです。今回の展示は、メンバーの横山(翔一)がい草樹脂の先行研究をしていたことと、僕がイケヒコ・コーポレーションさんと知り合いで、「畳を使って何かできんかね?」みたいな話をもらったことから始まりました。

加藤:「何かできんかね?」のゴールが、あのクオリティというのがすごい。本当に『アベンジャーズ』みたいな6 人衆ですね。

岡安:人がいっぱいいるというのはいいですよね。自分だけでは知り合えない人たちとつながれますから。

ビューリー:しかもスタートしたのが去年の12月で、素材開発から作品にするまで4カ月しかなくて……。メンバーやコネクションなど、本当にいろいろなピースがうまくはまって実現したプロジェクトでした。

鈴木:毎週、夜遅くまでミーティングをして、ずっと3Dプリンタの前でプロトタイプをつくり続ける生活。ミラノに着いてからもみんなで家を借りて一緒に暮らして、学生に戻ったような濃い4カ月でした。

岡安:合宿ノリですね(笑)。僕も若い頃は仲間と会社をつくって、ファニチャーフェアへ出展しにストックホルムに行ったり、ロンドンに行ったり。徹夜でハンダ付けをするみたいなことばっかりやっていました。

原田:その瞬間はめちゃくちゃきついけど、振り返るとかけがえのない思い出です。

加藤:青春だね。うらやましいな。

岡安: 20年経つと、もっとかけがえのない思い出になりますよ(笑)。

    IZUMI OKAYASU'S WORKS

    Evolutionary Specimen of fabrics(川島織物セルコン/2023 年)
    展示テーマは「進化標本」。見る角度や光の当たり方によってさまざまに表情を変える織物を、織技術や素材、糸に至るまで細部にわたって観察できる。ミラノデザインウィーク2023 に出展。

    画像説明文

    Lucèste:TOSHIBA NEW LIGHTING( 東芝/2010年)

    画像説明文

    Infuse 環境に滲む光( カネカ/2013 年)©Takumi Ota

    画像説明文

    Touch to turn light into delight(passing on project/2012 年)©Takumi Ota

僕らがサローネに出る理由

加藤:ケルンやストックホルムなど、家具の大きな展示会はいくつかありますが、サローネにはアートも含めて、あらゆるプロダクトが出展されています。ここに来ると今の自分たちのポジションが本当によくわかる。私たちにとってサローネは、現在地と理想のゴールを確認する場でもあるんです。

岡安:初めてサローネに行ったとき、その場で、この作品はいいとか悪いとか、いろんなことを言われるのに驚いて。自分がつくったものを多くの人が見に来てくれるというのはもちろん、そういう会話ができるところが、とにかく面白い。

加藤:新たな繋がりができて、新しいデザインが生まれるきっかけにもなりますし。

岡安:こんなに面白いイベントには、毎年絶対行かなくちゃダメだと思って、「出てくれる企業があれば僕、デザインします!」みたいな意気込みでやってきました。ただ、ここ数年はその熱が少し冷めてしまって。そもそも飛行機に乗るのが嫌い、というのが一番大きいんですけど(笑)。

加藤:カリモク家具という会社はどんな想いで、なぜこういう家具をつくっているのか。自分たちのアイデンティティを世界中の人たちに伝える、そんな意識で参加しています。最初の頃は、本会場に出展する資格がもらえないことも・・・

あと59%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

青山デザイン会議 の記事一覧

サステナブルと伝統が循環するミラノサローネ(この記事です)
テクノロジーで進化 「生き物」の表現
手のひらに「物語」を再現するミニチュアの世界
「木」と共生する技術とデザイン
世界の見え方が変わる 地理・地図から生まれる発想
創造力を高める「ゾーンに入る」方法
ブレーンTopへ戻る