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青山デザイン会議

「木」と共生する技術とデザイン

秋吉浩気、熊野 亘、吉田尚樹

サステナブル、アップサイクルといった言葉がさかんに叫ばれ、もてはやされる現在。ものづくりの現場では、デザイン性はもちろん、現代的な課題を解決していく視点が求められています。

今回集まってくれたのは、2020年にグッドデザイン金賞を受賞した「まれびとの家」や、木材のオンライン加工サービス「EMARF(エマーフ)」などで知られる建築テック系スタートアップ、VUILD代表の秋吉浩気さん。日本パッケージデザイン大賞2023で大賞を受賞した「BAUM」をはじめ、家具やインテリアを中心に木を用いた作品を数々手がける、プロダクトデザイナーの熊野亘さん。そして、東京の最西端、檜原村(ひのはらむら)で、持続可能な森づくりを目指してさまざまな活動を行う東京チェンソーズの吉田尚樹さん。

テクノロジー、デザイン、林業と、それぞれジャンルは異なるものの、木という素材と深く関わりながら活動する3人が、「サステナブル社会のものづくり」を語りました。

木を切ることは、そもそも悪なのか

熊野:インテリアや家具をはじめ、木を使ったプロダクトを多くデザインしていて、最近では、資生堂のオーガニックコスメブランド「BAUM」のパッケージを、カリモクの家具の端材を使ってつくりました。2021年からは、武蔵野美術大学の准教授として、教育にも携わり始めています。

吉田:東京の西の端にある檜原村で東京チェンソーズという林業の会社をやっています。木を植えて育てて収穫するのが従来の林業ですが、森づくりだけでなく、プロダクトをつくったり、体験をつくったり。森づくり、ものづくり、ことづくりを同じ強度で同時に進めることで木や森の価値を上げたいと考えて活動しています。

秋吉:VUILDという会社で、自分の地域の材料を使って自分の手で家具や建築がつくれる世界を目指して、そのために必要な技術やインフラ、サービスを提供しています。産地とのネットワークを持っているのが強みで、これまで中山間地域に木材加工用の工作機械「ShopBot」を180台以上導入してきました。

吉田:まずは林業について少しお話しします。林業はこの40~50年間、行政の仕事が主流で、その補助金があってはじめて成り立つという歴史があるんです。従事している人たちも補助金頼みのマインドから脱却できていない、というのが現状で。

熊野:僕は学生時代、フィンランドに留学していたのですが、そのとき学んでいた環境と生活がとても良かったという記憶があって。もちろん家具をつくるにはスペースが必要というのもありますが、そこに1回立ち返ってみようと考えて、数年前から、東京と長野での2拠点生活を始めました。ちなみに、都市部に住んでいる人たちからすると、そもそも「木を切ること自体が悪」みたいな感覚ってありますよね?

吉田:確かに、それはありますね。

熊野:長野の家は標高が高いところにあるので、まず木を切らないと日が当たらないし、台風のときには倒れてしまうので危ない。木を切ることに対して健全な理由があるのですが、それを都会の人たちに理解してもらうのって、なかなか難しいんじゃないかなと感じていて。

吉田:檜原も同じで、木を伐るにはそれなりの理由があるのですが、その後どう使うかというところがうまくできてない。

熊野:切ったあとにどう活用されるかとか、どんな循環が生まれるかとか、そういうことが見えてくると、納得してもらいやすいのかなと思うんですけど。

吉田:少し前まではその部分について私たちが頑張って説明していたのですが、最近では、間に入っている設計事務所さんや内装会社さんの理解が進んできて、提案していただくことも増えていますね。

秋吉:まさにそんな地域完結型のサプライチェーンを構築したいと考えてつくったのが、グッドデザイン金賞を受賞した「まれびとの家」です。山間部にShopBotを導入することで、伐採~加工~施工までを半径10km圏内で完結させました。その発展型として離島での循環圏にも挑戦していて、島の木を切って丸太のまま1000パーツ加工して、お施主さんと一緒にお店をつくるプロジェクトが小豆島で進行中です。

吉田:最初からネガティブな話をしてしまいましたが、ここ数年は、今まで森の中だけで完結していたものが、都市部をはじめ外にあふれ出すような取り組みが増えつつあるのを実感しています。実際、病院の裏山の手入れをしながらその山をセラピーに使おうとか、お寺の裏山をどう活用していこうかとか、少しずつそういう相談も増えてきました。

秋吉:ちなみに、僕たちはプロジェクトを始めるときには、パートナーを必ず森に連れていくようにしています。そこでブレストをして、材料を決めて、さあ家や空間をつくりましょうって。

吉田:それは私たちも同じで、やっぱり来てもらうと話が早いんですよね。釣った魚と売っている刺身ではないですが、実際山に来ると、そこには木があって、木には根っこもあれば枝葉もあって、その集合体が森になっている。「この丸太は何kg」と頭ではわかっていても、実際に動かそうとすると動かないんだ、とか。

秋吉:最近では、自分で木を選んでスキャンして自由に加工するワークショップをするとか、ただツアーをするだけじゃなくて、ストーリーをつくって持って帰ってもらう。僕たちは山側のプレイヤーではありませんが、空間に落とし込むときの思い入れを一層増やすという意味では、体験価値をどれだけ上げられるかが重要なので。

吉田:「今までなんとなく内装材を選んでいたけれど、木にもストーリーや背景があって、そこまでお客さんに伝えないと循環していかない」。そうおっしゃるデザイナーさんがいて、伝えたいのはまさにそういうことだと感じましたね。

    KOKI AKIYOSHI'S WORKS

    まれびとの家
    富山県南砺市利賀村で、3D木材加工機「ShopBot」と地元の木材を使い、地域住民が参加して建てた建築プロジェクト。竣工後はシェア別荘として、「観光以上移住未満」の家の在り方を提案している。

    小豆島プロジェクト
    オリーブを育んだ気候・風土を五感で体験できる施設。小豆島産花崗岩と小豆島産ヒノキを活用することで建材を自給自足、また施主自ら木を伐採し、皮をはぎ、乾かして丸太に加工するなど、「建築の民主化」を実践している。

    EMARF
    図面データをWeb入稿するだけで、デジタル加工機で加工された家具や建築のパーツが届くオンライン完結の木材加工サービス。

遊びがあって唯一無二、だから木は面白い

熊野:以前、長野の家の近所の仲間とベンチをつくったのですが、VUILDさんにパーツを切るのをお願いしたんです。もうネットで、そんなことが簡単にできるようになっているんだと感じて。

秋吉:VUILDでは、デザインから木製パーツを加工する工程をオンラインで完結できる「EMARF」というサービスを運営しています。見積もりも自動だし、加工データもそのまま出てくる。オペレーション側とユーザー側の課題をどちらも解決できるツールとして少しずつ広がっています。

熊野:基本的には、合板だけなんですか。

秋吉:ネットで流通させているのは合板ですが、無垢材でも可能です。

吉田:乾燥して反ってしまうといった問題はないんですか?

秋吉:もちろん反ってしまうこともありますが、そもそも反る前提で設計すればいいだけのことです。デジタルで製造して多少ずれても、職人さんが最後にノミで削ってあげれば組むことができる。金属やコンクリートだとそうはいきませんが、やっぱり木のいいところって、遊びがあって、手で微調整ができるところなので。

吉田:反るからといって敬遠してしまう人もいる中で、遊びがあるからいいというのは面白いですね。実際、丸太1本とっても同じ形のものはないし、板だって木目を含めて同じものはありませんから。

熊野:デパートで家具を買って家に届いたら「木目が違うじゃないか!」と怒られた、なんて話を聞いたことがありますが、一つひとつ違うことが木の魅力だし、それが唯一無二の価値になる。

吉田:最近、アットアロマさんと一緒に、間伐材を輪切りにしたディフューザーをつくったんです。形も違うし割れやシミも入っているし、お客さんからクレームが来るんじゃないかと心配していたのですが、逆にその表情を選んで購入してくださっているという話を聞いて。

熊野:BAUMのパッケージもそうですが、現代の感覚が...

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