プロダクトデザイナーの秋田道夫さんは、SNSで多くのファンがついている。語りかける言葉が平易で軽やか、日常の暮らしに結び付いている。しかも広い意味でのデザインに触れている──どんな発想から、これら“言葉のデザイン”が生まれてくるのか知りたいと話を聞きに行った。
機能を増やすには技術がいるが、機能を減らすには哲学がいる
秋田さんに最初にお会いしたのは、かれこれ10年ほど前のこと。知り合いに紹介されたのだが、デザインについて、やわらかく言葉を紡ぐ姿勢に、粋なセンスを持った方と感じた。今回、久しぶりにお会いしたのだが、細身の身体にシャツとパーカを重ねた装いが、カジュアルな中に品性を感じさせる。軽やかでフラット──以前と変わらない空気をまとっていた。
秋田さんといえば、LED式薄型信号機(01)、交通系ICカードのチャージ機、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズのセキュリティゲートなど、パブリックな場で大きな役割を担うデザインを手がけている。一方、土鍋「do-nabe」(02)やステンレス製のぐい吞み「50mm」(03)など、日常に寄り添ったデザインも──どれも、すっきりした佇まいながら、無機的な素っ気なさに陥ることなく、さりげない存在感を放っている。
その代表的な仕事のひとつに2007年から新潟の金属加工メーカーであるタケダと続ける「Primario」シリーズ(04)がある。2017年に発売されたルーペ(05)は、レンズを支える3本の足が描くアーチが美しい。
「アーチの部分から光が入って対象物を照らし出すとともに、この空間からピンセットなどを入れて使うこともできるのです」という説明を聞き、意味を持ったアーチであり、役割や意味を美しく視覚化するのがデザイナーの仕事と腑に落ちた。German Design Award 2020の最優秀賞をはじめ、数々の入賞により国内外で高い評価を得たという。
「機能を増やすには技術がいりますが、機能を減らすには哲学がいるのです」と秋田さん。そう聞いて、「こんなにたくさん機能はいらないのに」とか「この技術が使いたくて付けた機能なんだ」と感ずることが時々あると思い至った。そうならないためには、哲学が必要。つまり、機能の存在意義を問うていく。そこを担うのが、色や形のデザインにとどまらない広義のデザインと納得した。