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デザインの見方

美しい文字組版と紙面空間

白井敬尚

ヤン・チヒョルト『Meisterbuch der Schrift』(Otto Maier,1952)

私は、タイポグラフィを中心としたブックデザインやエディトリアルデザインを手がけています。今回挙げたものは、日本のタイポグラフィはむろんのこと、スイス・タイポグラフィを基盤にしながら、古典的なタイポグラフィを好む私のデザインの方向性や考え方の契機となった、ヤン・チヒョルトの著書『Meisterbuch der Schrift』。この本は、欧文タイポグラフィの教科書ともいえる良書です。

私が『Meisterbuch der Schrift』と出会ったのは1997年頃、出版社・朗文堂の代表、片塩二朗さんから、同書の日本語版のブックデザインを依頼されたことがきっかけでした。チヒョルトはドイツ出身のタイポグラファーで、1910年代から1920年代のロシア構成主義に影響を受けており、彼のバウハウスを系譜とするモダンデザインの流れをくんだ初期の仕事はとても有名です。

けれどもチヒョルトは第二次世界大戦を目前とする1930年代中期以降から、10代の頃に学んだ古典的なタイポグラフィに回帰していきました。そうした中の1冊が『Meisterbuch der Schrift』です。ここでは古代ローマン体から近代のサンセリフ体までの美しいタイポグラフィを紹介するとともに、悪い書体や良い書体の例を挙げ、解説をしています。

その著作の日本語版のデザインを引き受けたとき、原書のデザインを踏襲すること、つまりローマン体や明朝体で文字組をすることが私の役割だと考えました。しかし当時の私は、ヨーロッパの...

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