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青山デザイン会議

誰でもクリエイター時代の新しいコンテンツの届け方

明松 功、中尾孝年(KAZA2NA)、カツセマサヒコ、詩歩

今回の青山デザイン会議に集まってくれたのは、マスからソーシャルまで、さまざまなフィールドを知る4名。 まずは、今年4月にクリエイティブカンパニー「KAZA2NA(カザアナ)」を立ち上げたばかりのお2人。フジテレビ『めちゃ×2イケてるッ!』でプロデューサーを務め、“ガリタさん”のキャラクターでも知られる明松功さんと、電通のクリエイティブディレクターとして、サントリー「こだわり酒場のレモンサワー」をはじめ数々のキャンペーンを手がけてきた中尾孝年さん。

妄想ツイートが話題となり、2020年に『明け方の若者たち』(幻冬舎)で小説家デビュー、雑誌連載ほかラジオパーソナリティとしても活躍するカツセマサヒコさん。 そして、著書『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』シリーズが累計63万部を突破、「絶景プロデューサー」として地域振興などを手がける詩歩さん。 誰でも「クリエイター」を名乗れて、あらゆるクリエイティブがユーザーからのストレートな評価にさらされる現在。コンテンツの届け方は、どう変わっていくのでしょうか。

「興味があって愛はない」のがSNS

明松:1995年にフジテレビに入社して、3年目に『めちゃ×2イケてるッ!』のADになって、ディレクター、プロデューサーと立場を変えながら19年間番組に携わりました。営業などの部署に異動したのち、今年の3月末に退社して、中尾と一緒に「カザアナ」という会社を立ち上げました。

中尾:僕は元々、電通でコピーライターをしていたのですが、そこからCMやコミュニケーション全体に関わるようになって。明松さんとは27時間テレビの映像や、広告とドラマが融合した「突然コマーシャルドラマ」をつくったこともありましたね。

明松:中尾は大学のアメリカンフットボール部の後輩で、強固な縦の関係をそのまま活かした会社になった、と(笑)。

詩歩:私は「絶景プロデューサー」という肩書きで仕事をしています。2012年にネット広告会社に入って、新人研修の課題で「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」というFacebookページをつくったところ、それが1年で45万フォロワーぐらいまで伸びて、単行本を出したのがきっかけでした。

カツセ:僕は2014年からWebライターの仕事を始めたのですが、これからは拡散力が求められると感じて、しばらく本業そっちのけでTwitterばかりやっていたんです。2020年に『明け方の若者たち』という小説を出版して、それが映画化されてからは雑誌連載をしたり、ラジオ番組を持たせてもらったり。今はSNSよりマスの仕事が多くなりました。嬉しい反面、時代に逆行している気がして不安になることもあります。

詩歩:私の場合、インフルエンサーのように見られることも多いのですが、クライアントは地方自治体が多くて、メインの仕事は地域に眠っている観光資源の掘り起こし。SNSの発信だけで終わらせずに、そのスポットがもっと長期的に話題になるようなお手伝いをしています。

カツセ:僕がライターになった時点で、既に露骨なPV至上主義が始まっていましたが、ここ2〜3年でコンテンツを消費するスピードはかつてないほど速くなっていると感じます。バズったコンテンツでも2日後には誰も覚えていないし、数打ちゃ当たるを全員がやっているような状態。

詩歩:本当にその通りで、初速の勢いがすごい話題ほどすぐ忘れられてしまう。以前は「バズってありがたい」という自治体が多かったのですが、最近は疑心暗鬼というか、使い方を間違えると怖いという声も聞かれるようになりました。バズったから見に来た人たちってリピーターにならないし、マナーを守らない人も多い。いい側面もあるし、悪い側面もあるのがSNSだなと。

中尾:僕らのようにマスで育った人間には、長く楽しめる耐久力のあるコンテンツをつくるという文化がありました。見る側にも昔は愛がありましたが、今は興味があるだけなので、バーッと群がるけれど、すぐ次の話題に移っていってしまう。

カツセ:「興味があって愛はない」は、まさに今のSNSを言い表していますよね。特にTikTokではひとつのネタがバズると、それがすぐミーム化して広がっていくじゃないですか。オリジナルへのリスペクトの欠如にぞっとするし、クリエイターとは一体何なんだろうかと考えさせられます。

詩歩:サビは知っているけれど、誰の何ていう曲なのかは知らないとか。出会いが多いぶん、ファンになってもらうハードルがすごく高くなったというのは感じますね。

中尾:僕らは「真似したら終わり」という意識でやってきたので、めちゃくちゃギャップがありますよね。

詩歩:最近気になるのは、書いてあることを読まない、解説がついていないと見ないという人が増えていること。ハッシュタグをつけているのに「ここはどこですか?」と聞かれるし、インスタでも説明的な映像に、説明的なテロップやナレーションを入れたものが増えていますよね。SNSがグーグル化していて、検索するのもインスタやTikTok。もちろんそれが悪いとは言わないけれど、私がワクワクしながらやっていたSNSは、どこに行っちゃったんだろうって。

明松:最近よく「なんでテレビがYouTubeにすり寄ってくるんですか?」と言われるんです。フットワークの軽さやスピードでは絶対にYouTubeには勝てないですから、特にバラエティの場合は、ゴージャスでスケール感がある“ビカビカのコンテンツ”は、ひとつの武器として持っておくべきなんじゃないかな、と思うのですが......。

中尾:何でもかんでもSNSやYouTubeの文法に合わせようとしすぎて、それぞれのメディアの強みが消えている気がしますよね。でも『スター・ウォーズ』のような究極のエンターテインメントは残るし、やっぱり二極化していくと思うんです。

    KAZA2NA'S WORKS

    サントリー/こだわり酒場のレモンサワー

    にしたんクリニック

    『名探偵コジン〜突然コマーシャルドラマ〜』(フジテレビ)

    『めちゃ×2イケてるッ!』ガリタ食堂(フジテレビ)

    KAZA2NA Twitter/Instagram

    YouTube「ガリタちゃんねる」

1億総発信者時代のクリエイターとは

明松:クリエイターの定義が緩くなっているというのは、テレビ屋からするといい話でもあると思うんです。演出を研ぎ澄ますところに活路があると捉えてしまうのは、考え方が古いですかね?

カツセ:いえ、まさに演出やアイデアで切り拓いていく時代だと思います。メディア側からすると、スポットライトを当てられる人物が増えたという意味でメリットもありますし。ただ、クリエイター側からすると、単純にライバルがめちゃくちゃ増えて途方に暮れる、というのも事実ですよね。

詩歩:1億総発信者時代って、観光地にとってもいいことは多いんです。昔は、旅行に行って写真を撮っても家族や友だちに見せるだけでしたが、今は世界中の人たちがアクセスできるところに公開されて、次の旅行者を呼び込める。だからこそ、どう発信してもらうか、その仕掛けをつくるのがすごく大事になっていて。

中尾:詩歩さんの「絶景」にしても、観光に「映える」という視点をかけ合わせることで、新しいコンテンツを生んでいますよね。「突然コマーシャルドラマ」も同じで、物語を邪魔するCMでも、それがドラマの一部やストーリーの鍵になっていれば、視聴者は面白がって観てくれる。

明松:僕は番組をより面白くするために広告を利用できないかなという発想で、中尾はテレビを使って広告をより見てもらうようにできないかなという発想でした。

中尾:よく「アイデアはかけ合わせ」なんていわれますが、垣根を越えてコラボレーションするところに、チャンスと可能性がある。まさに僕らがボーダレス・クリエイティブ・カンパニーとして「カザアナ」でやりたいのは、そういうことなんです。

詩歩:私の仕事って、昔はコンサルティング会社なんかがやっていたことのライト版。写真も文章もプロではないけれどそこそこで、それなりに知見もある。全部そこそこがかけ合わさったから、仕事になったと思うんです。カツセさんのツイートは初期から拝見していましたが、今のような仕事につながると思っていましたか?

カツセ:まさか小説を書くことになるとは思わなかったですし、仕事になるかどうかはあまり考えていなかったような気がします。ただ、フォロワーが多くいることがなんらかの強みになるだろうとは...

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