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イラストレーター・紙版画家の坂本千明さんがおすすめする4冊の本

坂本千明

クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、イラストレーター・紙版画家の坂本千明さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『白眼子』

山岸凉子(著)
(潮出版社)

決して他人には晒されたくない心の暗部を描かせたら、山岸凉子さんに勝る人はいないのではないか。普段は見過ごしてしまいそうな違和感や自己と他者の間に生まれる負の感情をジクジクと丁寧に積み重ね、何もそこまで……というような容赦ない試練を登場人物たちに与える。彼らに同調しすぎるあまり、読後はどよんと落ち込み、物語を司る神である作者が救いの手をさしのべなかったことを勝手に恨めしく思ったりもする。

しかしこの一連の流れがたまらなく好きだ。いつの頃からか「めでたしめでたし」で終わる物語に馴染めなくなってしまった私にとって山岸作品は、フィクションやオカルトを通して現実を教えてくれる「気付け薬」のような存在なのだ。

それ故に主人公光子と、ある特殊な能力を持つ白眼子との不思議な縁、時空を超えた愛を描いた本作に、不意を突かれ私は涙してしまう。一見派手さのない物語には、人の愚かさや悲しみ、絶望を知り抜き、或いは想像し、描くことができる人だからこその容赦ない優しさが溢れている。白眼子の「人の幸・不幸は等しく皆同じ」という言葉は、そのまま山岸作品の根幹のように思え、私はそこに自分が生きるための光を見ている。

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