クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は2月に初めての歌集を刊行した歌人の上坂あゆ美さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『天 天和通りの快男児』
福本伸行(著)
(竹書房)©福本伸行/竹書房
「短歌をつくるにはどうすればいいですか」と言われると、いつも「まず人生をちゃんとやると良いかもよ」と答えている。それはつまり、信念を持って生きるということだ。むしろ私にとって創作物とは、信念を持って生きる過程で生まれる排泄物のようなものだと考えている。
『天』の登場人物である赤木しげるは、常識や損得にとらわれることなく信念を貫き、信念を守るために最終的に死を選んだ。私も、仕事のためではなく、創作のためではなく、信念のために生きて死にたい。私の信念とは、私が幸せであることで、私が幸せであるためには、私の周囲の人も、もっと遠い人も、できれば世界中がすべて幸せであってほしい。赤木は自分の信念のために、麻雀以外の生活や、他者の気持ちなどをないがしろにすることがあるが、私にはそれができない(信念に反するから)。
文筆業界ではなんとなく「不幸でなくてはいいものが書けない」みたいなことが言われていたりするけれど、私は最高に幸せな状態で最高な作品をつくってやりたい。こうしてみると私は赤木よりさらに欲深い人間だが、信念を持って生きたほうが人生はずっと輝くのだということを、この漫画に教えてもらえてよかった。