クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、岩手県盛岡市に2017年にオープンした「BOOKNERD」店主の早坂大輔さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『遊MOREデザイン館 創造・アイデア・教育』
福田繁雄(著)
(岩波書店)
「合理的で便利なものにであうと、その裏には、不合理で、とても不便なものがかくされている」。機能的で合理的なデザインをつきつめていけば、その先にはかならず「無用の用」「無意味の意味」が見えてくると、日本を代表するグラフィック・デザイナーの福田繁雄氏は説きます。
機能的で合理的で生産性の高いプロダクトやサービスにばかりぶつかることの多くなった今日だからこそ、この言葉がより有用性を帯び、彼の深い洞察力のもとに生み出された思想であることを実感するのです。彼が語った思想はデザインの分野における話ですが、ぼくが営む小さな商いにおいても不思議なことにすっと馴染みます。利便性や生産性やスピードばかりが持て囃される現代にあって、スローでアナログで非生産的な、いわゆる不要不急のものにあたる本は「無用の用」なのでしょうか。
機能性と合理性に埋没し、常に時間に追い立てられているわれわれにとって、「読書」という行為はロマンを掻き立て、長らくわたしたちが忘れていた精神的な高潔さというものを思い出させてくれます。消えかかっている文化を目の前に、歪で非合理的なものに信を置き、そのなかから真理を見出そうとしている人たちが通う場所こそが本屋であってほしいと強く願います。