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デザインプロジェクトの現在

一生懸命に生活する、料理することが、美しさをもたらす

土井善晴

知り合いの編集者が、料理研究家の土井善晴さんの本を手がけたと耳にした。『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)と題され、これまでの道程を含めた一書になるという。以前からファンだったこともあり、お会いしてみたいとインタビューをお願いした。

『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)。

『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)。

実はおしゃれ好き

陽射しが強い午後、取材場所である新潮社クラブに現れた土井さんは、爽やかなブルーのシャツがお似合いで、清々しい空気をまとっている。そう口にしたところ、「高校生時代にアイビーにはまり、おしゃれ好きなんです」と軽やかなお話に。『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)にも、「愛読書は『メンズクラブ』、服飾評論家くろすとしゆきの『アイビー雑学事典』、『Cross Eye』(メンズクラブの別冊でした)のあたり」と記されている。

高校生時代に「レノマ」のスタンドカラーのシャツを着て美容室に行ったら、今もお世話になっている萩原ミヨさんから「いいシャツですね」と言われたというエピソードも興味深い。昨今、ファッションはもはや必要ないといった意見を耳にすることが多いので、「おしゃれは大事なのでしょうか」と質問したら、「おしゃれな人はおしゃれな仕事をすると僕はとらえています。ファッションは自分を表現する大切な手段のひとつではないでしょうか」と嬉しい答えが返ってきた。

そしていよいよ本題に──本書には、土井さんの半生と、そこに映し出される土井さんの考えが綴られている。単に料理にまつわる話ではなく、美しさということについて、人や暮らしについて、ひいては生き方に及ぶ話に惹き込まれる。

「美しさ」を多面的に語る土井さんの眼差しの基点はどこにあるのか──フランスでの料理修業を終え、日本に帰国した土井さんは、日本料理がわかっていないと思い立ち、大阪の「味吉兆」に入る。そこで、5000円の器と50万円の器の違いがわからない。「自分の目は『見えない』ことを知るのです。何も見えていないと自覚したと言っていい」。

どうすれば「見えるようになるか」と考え、ひたすらいいものを、最高のものを見る経験を重ねた。「そうやっているうちに、体の中に美の枠組みができてくるのです」。きれいとか、おいしそうという感覚、それは人間が持っている万能のセンサーであり、使わないとなくなってしまう。磨くことが大事という話に、ことの真髄に触れた気がした。

経済ばかりに気を取られていると歪みが出てくる

土井さんは、「感性をおろそかにしてはいけない。知らないことを...

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