クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、詩人であり、コピーライターとしても活躍する黒川隆介さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『路上』
ジャック・ケルアック(著)、福田実(訳)
(河出文庫)
本を沢山読んできたことが偉いといった風潮があるが、どんな人でもこの世の全ての本を読むことはできない。だからこそ、量ではなく、何を選ぶか、何を読むかが重要だ。若い時分に背伸びして通っていた飲み屋のおやじに言われた言葉を思い出す。
自分は文学といったものに一種の抵抗感と憧れを物心つくころには持っていた。育ちが明るいとは言えない自分がインテリじみた本を読む、恥じらいと格好つけ。遠そうでいて、手を出そうと思えば手に取れる近い存在の本が、現実から脱出する術のようなものでもあった。
そんななか手に取った『路上』は、文学や本たるものはこうあるべきだといった観念を鮮やかに破壊してくれたように思う。書こうとして書くのではなく、生きて書く。生きることで書いていくという背伸びも卑屈もない言葉にこれでいいのかと思わされた。酔ってそこらじゅうに寝転がる夜のはざまに書き続けていく、時にはロマンス、時には喧嘩。学歴も受賞歴もまして生まれ育ちも関係ないところに息づく文学と言葉。
作家の最大の仕事は書くことではなく、生きることだと勝手にケルアックから解釈し、いまに至る。