エンジニアリング分野から生まれた「プロトタイピング」。近年、デザイン思考の分野からも注目を集めている。デザインファームなどを経営しつつ、プロトタイピングの研究と実践に取り組んできた三冨敬太さんが解説する。
ライト兄弟のプロトタイピング
1903年12月17日、アメリカの西海岸の砂丘で1機の飛行機のプロトタイプが59秒の間、約260メートルの距離を飛行しました。あまりにも有名な、ライト兄弟による世界初の有人動力飛行の成功の瞬間です。
このライト兄弟の飛行機の開発のプロセスをプロトタイピングという視点で切り取ると、「直列プロトタイピング」と「並列プロトタイピング」をうまく活用していることが見えてきます。7回目の記事でご説明したように、「直列プロトタイピング」はひとつのコンセプトを繰り返して検証すること。「並列プロトタイピング」は複数のコンセプトを並行して検証することです。この直列と並列の2つのプロトタイピングの概念を前提において、ライト兄弟の功績を見ていきます。
ライト兄弟の最初の飛行機のプロトタイプは、1900年に作成されました。そのプロトタイプはエンジンもなく、無人のもので、一般的には飛行機ではなくグライダーと呼ばれるタイプのものでした。このプロトタイプを牧草地で飛ばしたのですが、滑空はうまくいかず、飛行は失敗。その失敗から、想像よりもはるかに強い風の力が必要なことを学習しました。
翌年の1901年には2つ目のプロトタイプとして、前回の失敗を修正しつつ有人での飛行を実施。再び...