エンジニアリング分野から生まれた「プロトタイピング」。近年、デザイン思考の分野からも注目を集めている。デザインファームなどを経営しつつ、プロトタイピングの研究と実践に取り組んできた三冨敬太さんが解説する。
「余白のプロトタイピング」の力
2019年に「プロトタイピングの経済性」という概念が、シンガポールを拠点に活動するEdward Tiong氏とSUTD-MIT International Design Centre(シンガポール工科大学とマサチューセッツ工科大学の連携プログラム)による研究チームから提示されました。彼らは、実際のプロジェクトで実施された50を超えるプロトタイピングを「費やされた時間」と「得られたデザイン情報の価値」という観点から分析しました。そして、どのようなプロトタイピングが最も「経済的」なのかを示したのです。つまり、短い時間で効果的な情報が得られたプロトタイピングほど「経済的」である、と。
その研究をベースに、一般社団法人 PLAYERSが企画・開発した、「スマート・マタニティマーク」のプロトタイピング・プロセスを分析しました。スマート・マタニティマークは、立っているのがつらい妊婦さんと、周囲にいる席をゆずる意思のある人をマッチングするIoTデバイスで、開発の過程で多くのプロトタイピングを実施しました。
そのプロトタイピングを「費やされた時間」と「得られたデザイン情報の価値」を軸に分析したところ、あるプロトタイピングの集団が効果的であることが示されたのです。それが、コミュニケーションを...