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青山デザイン会議

クリエイターのための「ととのう」ススメ

上村俊、こばやしあやな、佐々木駿

「ととのう」をキーワードに、コロナ下においてもなお、空前のサウナブームが続いています。

集まってくれた“サウナー”は、北海道を拠点に全国各地に眠る素敵なサウナとその背景にあるカルチャーを紹介するテレビ&YouTube番組「&sauna」を立ち上げ、1月からサウナを軸にした地域共創型プラットフォーム「&sauna FARM」をスタートした北海道文化放送の上村俊さん。フィンランド在住のコーディネーターでサウナ文化研究家としても活動、昨年12月に『クリエイティブサウナの国ニッポン』(学芸出版社)を上梓した、こばやしあやなさん。

デジタルの領域で制作プロデューサーを務める傍ら、沖縄・カヌチャリゾートで行われているサウナイベント「Δ℃℃™ZONE(アッチッチゾーン)」の企画・運営を手がけるAID-DCCの佐々木駿さん。日本独自のサウナ文化と過熱するブームの今、そしてサウナとクリエイティブの関係まで、熱~いトークをお楽しみください。

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だから、日本のサウナは面白い

こばやし:サウナ文化研究家という肩書で活動していますが、本業はフィンランドでコーディネーターをしています。2011年に移住して、大学院で公衆サウナについて社会文化学的な観点から研究して、3年前に『公衆サウナの国フィンランド』という本を書きました。昨年12月には、今度は日本独自のサウナ文化を紹介する『クリエイティブサウナの国ニッポン』という本を出版し、さまざまな国の浴場文化についてフィールドワークを続けています。

上村:私は北海道文化放送というテレビ局に勤めていて、「&sauna」というテレビとYouTubeでサウナを紹介するコンテンツの立ち上げに関わっています。今年の1月には「&sauna FARM」という地域共創型プラットフォームもスタートして、サウナを軸にした地方創生をしていきたいと考えているところです。

佐々木:AID-DCCというデジタル領域のプロダクションでプロデューサーをしています。実は僕自身、大阪の吹田市にある七福温泉という銭湯のせがれで。

こばやし:私、吹田育ちなんです。

上村:うちの親父も吹田に住んでました。

佐々木:ほんとですか!僕は2018年に、フィンランド政府観光局のプログラムに応募して、1週間ほどホームステイをしたんです。それからサウナで何か面白いことができないか悶々としていたのですが、ちょうど沖縄のカヌチャリゾートから、本土からもっとお客さんを呼べないかと相談されて、「Δ℃℃™ZONE(アッチッチゾーン)」というサウナイベントを企画しました。

こばやし:今のサウナブームをつくったのは、間違いなくタナカカツキさんが描いた『サ道』。2016年に単行本化されて、「ととのう」というフレーズが話題になり、ドラマ化もされました。ここまで広く受け入れられたのは、やっぱり現代人が求めていたものをサウナが補ってくれたから。中でも、デジタルデトックスの場という点が非常に大きいでしょう。

佐々木:実家の銭湯を思い返してみると、サウナって暗くて閉じ込められた場所で、おじさんやアスリートの人たちが黙って入っている、みたいなイメージ。限られた人が楽しむ、ちょっとクレイジーさもある場所でしたが、それが誰でも楽しめるものになった。ととのい方がマニュアルとして知れ渡ったのも大きいですよね。

こばやし:遠くに行かなくても、30分サウナと水風呂に入って外気浴したら、リセットできちゃう。それが身近にあるというのは革命的。ただ、都会と地方では、まだ思っている以上に温度差はあって。

佐々木:確かに、Δ℃℃™ZONEを企画したときにも、地元のスタッフから「サウナのためにホテルに行く意味がわからない」と言われました。沖縄の人たちって、あんまりお風呂につからないみたいなんです。

上村:私は沖縄生まれなのですが、シャワーしかない家も多いですよね。そういう意味では、沖縄のサウナは、リゾート感とかトリップ感みたいなものを打ち出した方がいいのかもしれません。

佐々木:最近、日本のサウナブームは過熱気味で、たとえば“熱波師”と呼ばれる人が「今日のアロマオイルは○○です」と高温の蒸気をあおいで、みんなが拍手をする。これって、フィンランドではないですよね?

こばやし:そうですね。日本では「ロウリュ」と「アウフグース」も、ごちゃ混ぜになりがちですが、ロウリュはフィンランド語で「蒸気」を表す言葉で、サウナストーンに水をかけること。「アウフグース」は戦後、ドイツ人が広いサウナの中に熱を行き渡らせるためにあおぐことを始めて、それがパフォーマンス化していったんです。

佐々木:なるほど。

こばやし:「サウナ」という言葉自体はフィンランド語ですが、フィンランドがサウナの発祥国かというとそうとも言い切れなくて、周辺のロシアでもバルト三国でも、昔から暖をとるためにやっていたわけです。

上村:こんなアカデミックな話、なかなか聞けないですよね。

こばやし:フィンランド人には、サウナはこうあるべきという伝統があるから、テレビや音楽は絶対持ち込まないし、あおぐこともしない。それが日本の場合、いろんなものを取り入れて、切磋琢磨を重ねた結果、いつしか独自の形に進化していった。そのプロセスは純粋に面白いと思うんです。

上村:僕らのようなメディアが存在していることこそが、まさにブームなのかなと。戦国時代の野武士剣法が、江戸時代にルール化が進んで、町道場ができて爆発的に広まったように、今はサウナの「型」というか、流派がどんどん増えている状態。しかも、それぞれの流派がポジショニングを探り始めていて、中には「ととのわなくてもいい」なんて言う人もいるくらい。いろんな考え方があるのがダイバーシティ的だし、サウナ的でいいですけどね。

こばやし:日本人って、アウフグースひとつを取っても、施設のコールに対するレスポンスが熱いじゃないですか。日本人らしいホスピタリティとか、楽しませたいというエンタメが加わって、相乗効果を生んでいる。新しいサウナができたら逐一SNSで報告してくれるような愛好家の方々がいるというのも、これだけ熱狂的に盛り上がっている理由でしょうね。

上村:今は地方に行きたいけれど我慢しているサウナーがたくさんいるので、コロナが収まったら、「サ旅」文化が爆発するんじゃないかなと思っています。

    SHUN KAMIMURA’S WORKS

    & sauna
    北海道文化放送のテレビ&YouTube番組としてスタート。今年1月にはサウナを軸にした地域共創型プラットフォーム「&sauna FARM」を立ち上げ、企業や自治体と協働でツアーやイベントなどを展開する。

サウナーがオススメする、ととのう一軒

上村:個人的な意見ですが、サウナのあとの外気浴こそが「ああ、ここに来てよかった」と感じる部分だと思っているんです。そういう意味では、北海道には素晴らしい大自然があるので、ネイチャーサウナの方向でどんどん発展していくんだろうなと。

こばやし:都心の人たちにとってのサウナって、ビルの中にあって、外気浴といってもベンチが置いてあるだけのこともある。サウナに求めているものが根本的に違うというか、やっぱり北海道に行くからには、その土地らしさを感じられるところに行きたいというのはありますね。

上村:北海道はフィンランドと気候が似ているし、源泉も600個ぐらいある。&sauna FARMでは先日、十勝サウナ協議会の「サ国プロジェクト」と提携して、帯広を中心とした十勝エリアのサウナの「型」をつくって盛り上げようとしています。

佐々木:沖縄の場合は、太陽が燦々と降り注ぐ南国で、大きなプールに入って、リゾート気分を味わうという感じで、楽しんでもらっています。そういう、ちょっとエキゾチックなサウナを味わいたいという人と、旅行中も毎日サウナに入りたいという人、その両方のタイプがいますね。

こばやし:1回はまってしまうと、ないとそわそわしてきちゃうんですよね。

上村:出張に行くときは、絶対サウナがあるところに泊まりますもん。

こばやし:私も日本に帰ってきたら1日1~2軒は回っていて、フィンランド人に呆れられているのですが、そのとき参考にしているのが検索サイトの「サウナイキタイ」。最近では...

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