デザイナーの活動領域は無限だ。アディダス、ナイキなどのアートディレクターを経て、現在は東京大学生産技術研究所に所属する山崎みどりさんがデザインと周辺領域の融合について解説する。
“理想の波”を再現するデザイン
10年以上サーフィンを続けているのですが、波を捉えて立ちあがるテイクオフの直前、水面すれすれから見渡す波は無駄がない曲線を描いていて、誰かに伝えたくなる特別な形をしています。でも次の瞬間には変化してしまうし、じっと見たら転んでしまうので、記憶の中で曖昧なまま、どうやったら表現できるのか長い間わからずにいました。
スイスを訪れたとき、日本の建築家ユニット SANAAがデザインしたEPFL(スイス連邦工科大学)ラーニングセンターの大きく波打った床をよじ登りながら「この床みたいに“理想の波”を再現できると思いますか?」と、現地を案内してくれていたYves Leterrierに尋ねました。彼に、持ち歩いていた波の解説書を見せた時からこのプロジェクトは始まりました。
今回コラボレーションしたEPFLの教授、Yvesが専門とする分野は材料工学で、機能性複合材料について研究しており、サステナブルなバイオベース・パッケージなどさまざまな機能のある素材を開発しています。彼に「まずはその理想の波を書いてみてもらえる?」と言われて、自信がないままスケッチを見せたら、あっという間に物理法則の方程式を使った波のシミュレーションをつくってくれました。
驚いたのは、手書きの曲線とシミュレーションが非常に似ていたことです。理想の波は数値化して再現することが可能かもしれない...