「ブランデッドコンテンツ」をどのように定義し、企業は活用をしていくべきか。プロモーションを重視しがちな中で、ブランディングに取り組む意義とは。資生堂のクリエイティブディレクター、小助川雅人さんが海外事例を交えながら解説する。
多様化が加速する世界で必要な「本質」
車であれ、カメラであれ、ファッションであれ、なんでも構わないのですが、今、あなたが何かを買おうと考えているとします。では、人となりがよくわからないセールスマンと、人として好意が持てるセールスマンとでは、どちらからものを買いたいでしょうか。ブランデッドコンテンツについて書くにあたって、そんな質問からスタートしてみます。
多くのモノの機能の差別化が難しい時代。何を(いくらで)売っているか(=プロモーション)も重要ですが、誰が(どういう気持ちで)売っているのか(=ブランディング)ということも同じように重要だと思われます。プロモーションとブランディングは相反するものではなく、お互いに補いあうものであるはずです。
私は広告の研究者ではないので、明確な定義をしたいわけではありません。ブランデッドコンテンツについて調べれば、さまざまな記事が上がっています。要約すると次のようなことと言えそうです。「プロダクトやサービスそのものを売り込むものではなく、それらの元となるブランド、企業の思想、姿勢を伝えるためのもの。つまり企業、ブランドの人格を表現するもの」。
今、ブランデッドコンテンツが注目されていることにはいくつかの理由が考えられます。その最も大きな理由は、世界がより複雑に、多様化しつつあること、ではないでしょうか。富と貧困、ジェンダーイクオリティ、人種、温暖化に代表される環境問題、労働環境にまつわる人権の問題など、そこにはさまざまな対立の構造があります。このような複雑化、多様化が加速する不安定な世界の中で、人々の信頼を獲得するためには、その企業やブランドがなぜ存在するのか、何を考え、何を目指しているのか、企業もその「人格」をはっきりさせる必要に迫られていると言えるでしょう。
「ブランデッドコンテンツ」が注目されるのはそれが流行っているから、というよりも、世界や人々の行動、意識が急速に変わっていく中で自分たちの立場を明確にすべきという状況になっているからです。これは「パーパス・マーケティング」が重視されてきたこととほぼ同じ理由によるものではないでしょうか。
したがってブランデッドコンテンツには、その企業、ブランドの「本質」が求められることになります。良質なブランデッドコンテンツとは、その「本質」がクリエイティブとして見事に昇華されたもの、ということができるでしょう。それでは企業やブランドの「本質」とはなんでしょうか。私は、それは単なるモノやサービスを超えて、企業やブランドが、どのように生活者の“life”に関わっていきたいか、という「意志」であり「意味」であると考えます。
行動・歴史・ファクトに基づく内容に
では近年の事例を挙げていきます。2019年の国際女性デーに公開されたメルセデス・ベンツの「Bertha Benz」は当時まだ社会に理解されていなかった自動車で、初めて長距離ドライブに出た創業者の妻、ベルタ・ベンツの勇気ある行動を描いたムービー。そのエピソード自体の新鮮さと、映画のような本格的なつくり込みによって見るものを引き付けます。
ここで描かれる「ベンツ」は成功者としてのゴールではありません。むしろゼロからスタートする「フロンティアスピリット」を...