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2020年代のアートディレクション

自分のできることが誰かの世界をちょっとでも変える力になれたら

柴谷麻以(電通)

宝島社の正月広告やWACKの企業広告のほか、NHK Eテレ『ねほりんぱほりん』や宅配便の再配達を減らす「3cm market」など広告の領域に留まらずアートディレクションを手がける柴谷麻以さん。仕事にどのように向き合い、アイデアを考えているのかを聞いた。

電通 zero
アートディレクター/デザイナー
柴谷麻以(しばたに・まい)

女子美術大学デザイン学科卒。ロゴやポスター、プロダクトなどの仕事から、映像、番組制作など統合的なブランディングまで幅広い領域のアートディレクションを得意とする。主な受賞歴に、SPIKES ASIAグランプリ、CANNES LIONS、ADFESTなどの海外賞から、ADC賞、ACC賞、朝日広告賞、GOOD DESIGN AWARD、ギャラクシー賞ほか。

学生時代から意識していた「自走するデザイン」

──柴谷さんがデザインに興味をもちはじめたのはいつ頃ですか。

幼稚園の時から美術の道に行きたいとなんとなく思っていたので、中学高校と女子美術大学付属に通いました。高校では自分がやりたかった油絵を描いていて、特にアートとデザインに境界線をも感じず、ビジュアル表現として大きく捉えていたんです。学校以外の人たちの作品も知りたかったので、予備校の油絵コースに通い始めて、課題の中で他の人たちとどう差をつけるかを考えていることに気づきました。与えられるものがなくなったときに、アートと向き合い続けることができないかもしれないと。

当時、友だちの誕生日にオリジナルで脚本を書いて、みんなで声を録音してドラマCDをプレゼントしたり、学校行事でみんなで何かをしたりすることが好きでした。そういう社会と繋がってコミュニケーションを取るデザインのほうが、自分が世の中に存在している意味があるかもしれないと、女子美術大学のデザイン学科に進みました。

──大学ではグラフックデザインを中心に学んだのでしょうか。

最初の2年間はグラフィックデザインも含め、プロダクトデザイン、環境や空間のデザインなどを履修しました。いろいろなジャンルのデザインがあるんだと学ぶことが楽しくて、教職や学芸員などやってみたいことへ、とにかくチャレンジしていました。

3年生からは一番いろんなことができそうなグラフィックデザインを専攻。ロゴの授業でもマークだけではなく、ロゴを動画にしたら、空間にしたら、という展開を考えることがとても楽しくて、振り返ってみると、当時からデザイン自体がコンテンツになり、自走していくことを心がけていたのかもしれません。今も変わらず、デザインに命が宿るというか、そこからストーリーが生まれることを意識しています。

ロジカルさと純粋な美しさを同居させる

──広告デザインの仕事に携わるようになってから意識していることは。

広告の仕事では機能や必然性、条件、事情など左脳的な思考をすることが増えます。一方で右脳で「これは美しく見えるか」「他人が見たときに主観的な感覚で共感してもらえるか」と考えることも大事だと思っていて、その両方を行き来するようにしています。たとえば、マンションでも、ここにエレベーターがあるからこの部屋は凹んでいる、と感じることがありますよね。

でも、私はそういう事情をデザインとして消化したいんです。苦労や事情を気づかれないようにすることを心がけています。そういうロジカルと純粋な美しさみたいなもののバランスがとれているのが、良いアートディレクターかなと、常に意識しています。そしてこのロジカルというのは、商品が売れる、機能するという話だけでなく、ジェンダーやサステナビリティだったり、いろいろな要素を含んでいるんです。それって時代とともに更新されていくから、どんどん勉強することが増えています。

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