ユニクロ、日産自動車などのグローバルクライアントのキャンペーンのアートディレクションを手がける伊藤裕平さん。その一方、落合陽一×日本フィルによる音楽会プロジェクト、子どもたちへ手洗いを啓蒙する「おれたちういるすPROJECT」など従来の広告の枠にとらわれない活躍を見せる。
世の中に流通する絵をつくる
──伊藤さんがADの仕事に興味をもったきっかけは何だったのでしょうか。
大学3年生の時に、学校に置いてあったパンフレットを見て、箭内道彦さんが主催した「広告サミット」に行ってみたんです。そこで紹介された広告は、どれも知っているものばかり。それから広告の仕事をしたいと思うようになりました。
その広告サミットで、佐藤可士和さんが「広告には、自分のつくったデザインで世の中を大きく動かすダイナミズムがある」と言っていて。僕は大学でデザインを学びながらも、どこか閉じたイメージがあるというか、世間一般の人と関係ない世界と思っていた部分があったんです。広告は間口が広くて、自分のつくったものがすぐ世の中に届き、かつリアクションをもらえると感じました。そこで、可士和さんや箭内さんもいた博報堂に入社しました。
最初にADとして配属されたのが、SIXの大八木翼さん、本山敬一さん、GOの三浦崇宏さん、CHOCOLATEの栗林和明さんなどがいたEBU(エンゲージメントビジネスユニット)という、新しくできた部署だったんです。そこでは、従来のマス主体ではないデジタルを軸にした統合施策を考えたり、「500万円でとにかくバズらせて」みたいな仕事をしたり(笑)。それまでナショナルクライアントのグラフィックやCMの仕事が中心だった僕にとっては、いきなり総合格闘技戦のリングに立たされた感覚。そこでADとしていろいろな領域の仕事に関わることができました。今思うと、これが僕にとっての転機かもしれません。
──特に印象的なお仕事はありますか。
ひとつは、『メタルギア』シリーズの25周年でつくった、究極のキャラ弁プロジェクトです。めちゃくちゃクオリティの高いキャラ弁をつくってゲームの制作者を労おうという企画でした。企画は採用されたものの、つくれる人が見つからなくて。
そこで、ベースは食のシズルプロダクションさんにお願いしながらも、マッシュポテトで立体的な顔をつくるために、友人の人形作家さんに顔の型をつくってもらうなど、クラフトアップに知恵を絞りました。完成イメージを描くだけでなくて、材料は何を使うと良いかを考えたり、実際に仕上げのお弁当づくりにも参加しました。その結果、低予算の仕事ながらめちゃくちゃバズりました。
2つ目は、PS3ソフト『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』の発売キャンペーンとして、JR山手線の1編成をジャックした企画です。普通はキャラクターのビジュアルを大きく掲載すると思うんですけれど、少し発想を変えました。敵のキャラクターが攻撃した跡が残った電車という発想で、切れ目が入り、歪な形をした中づり広告を展開したんです。さらに敵を追跡する能力を持つキャラクターが、電車の位置を教えてくれるWebサイトもつくりました。今までにないメディアやデジタルを活用することで話題になり、アートディレクションの可能性を実感する仕事でした。
そこで、アートディレクションとは、世の中に流通する絵をどうつくるかを考えることかもしれないと。アウトプットの形は異なりますが、大切にしているのは「異常値を...