福井県福井市に、全国から人が集まる小さな教室がある。そこでは、デザインの力を駆使し、多元的な視点で考え、人と人との関係性を生かした、中規模都市の未来を見据えたプロジェクトが生み出されている。
未来に問いを投げかけるプロジェクト
"絵巻で味わう民話と食べ物"をコンセプトにした観光物産商品、"レース素材の可能性を引き出す"企業内ラボ、"ものづくりを通して、障害のある人もない人もあらゆる人が集う"地域拠点、"在日外国人と日本人をつなぐ"オンラインのホストファミリープラットフォーム──。
福井市にて、地域の文化や風土、産業、社会の動きを読み解きながら多様なプロジェクトの種が生まれている。これらは、「XSCHOOL」の成果だ。XSCHOOLとは、福井の文化、風土や産業を探索し、社会の動きを洞察しながらプロジェクトを創出する、次代のデザイナーのための教室だ。XSCHOOLは、「福井でつくろう、福井をつくろう」をテーマに、まちの魅力や価値の可視化を通して、地域を超えた"新たな人の流れの創出"を目指す「未来につなぐ ふくい魅える化プロジェクト」のひとつとして、2016年に始動した。
発足当初は、中高生、大学生、地元企業、お試し居住者などさまざまな世代を対象とした5つのプロジェクトを実施。現在は、その中からXSCHOOLを中核に置き活動を継続している。毎年、プログラムを変えて進化している。
全国から公募した多様な専門性をもつメンバーたちと、地域とともに育ってきた福井内の企業に属するメンバーが月に1回福井に集まり、他の日程はオンラインでコミュニケーションし、異なる視点をぶつけ合いながら議論と試作を重ねる。デザイナー、建築家、保育士、研究者などさまざまな出自の人で結成されたチームごとに、社会実装や事業化も視野に入れ、約120日間のプログラムの中で新たなプロジェクトを生み出している。
さらに本プロジェクト全体では、Web、フリーペーパー、映像という3つの独自メディアを運営、福井の魅力をさまざまな切り口で発信している。それによって、福井に暮らす人々には暮らしのなかでの再発見を、まだ福井を知らない人々には街と出会うきっかけをつくっているのだ。
これらの活動は福井市が主宰となり、福井出身の内田友紀さんが所属するリ・パブリックと、地元で強い発信力を持つ福井新聞社が共同事業体として運営。そこに、大阪を拠点とするUMA/design farm 代表の原田祐馬さん、MUESUM 代表の多田智美さんなどがディレクション、デザイン・編集などで参画した。
始まりは、福井にある魅力をメディアを通してどう発信していけばよいのか、という福井市からの相談だった。それをプロジェクトチームで読み解き直し、今あるものを見える化するだけではなく、魅力が生まれ続ける状態をどうやってつくっていくのか、と問い直した。「メディアをつくり、ただ届けるだけで終わるのではなく、地域に必要なのは新たな価値を掘り起こし、次の時代に向けた魅力が生み出され続けること。そのために、新たな人の流れと仕事をつくり、その状況を可視化し、地域を超えた関係性を生み出すことを目指してスタートしました」と内田さん。
さらに、このプロジェクトでは地元の福井新聞の協力があることが大きいと、多田さんは話す。「福井新聞社は、地元に密着した新聞社として、取材をするだけではなく、記者自身がまちづくりのプレーヤーになるという動きをすでに行っていたんです」。
こうしたアクションのみならず...