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REPORT

もっと自由に表現するために壊す勇気を持つ

伊藤佐智子、矢後直規

映画、演劇、そして広告において衣装を中心にさまざまなクリエイションに携わっているファッションクリエイター 伊藤佐智子さん。そして、今年2月に初となる大規模個展を開催するアートディレクター 矢後直規さん。この5年にわたり、共に仕事をしてきた2人に、いまの時代のビジュアルクリエイションについて話していただきました。

「婆娑羅」という言葉の背景にあるもの

矢後:僕がアートディレクターとして初めて伊藤さんと仕事をさせていただいたのは、ラフォーレの2015年の冬のグランバザールでした。当初はスタイリストに選んでもらった衣装を使うプランで、フォトグラファーの瀧本幹也さんに依頼したら「衣装は伊藤さんがいいと思います」と言われて。それで伊藤さんにイメージのスケッチを渡したら、スケッチの鉛筆の線を生かしたアシンメトリーな衣装をつくってくださった。自分のラフスケッチが、こういう風に変化をするんだと驚きました。

伊藤:私の仕事は自分1人で考えるのではなく、みんなからのキャッチボールでできていくもの。アートディレクターや演出家とボールを回していくと、どんどん面白いものになっていくのよね。

矢後:その後も伊藤さんとはいろいろお仕事をさせていただいていますが、「伊藤さんにお願いする」と思うと力が入って、難しい衣装ばかりお願いすることになってしまい・・・。でも、伊藤さんはいつも僕が描いたスケッチとは全く違うものに仕上げてくださる。だから、僕は伊藤さんに「こういう衣装をつくってください」とお願いするのではなく、アイデアだけ採用してもらうようにしています。

2月22日からラフォーレミュージアム原宿で開催する僕の初の大型個展「婆ばさら娑羅」でも、衣装のスケッチを事前に描きました。でも、伊藤さんのほうが婆娑羅について考察をされているから、騎手という設定以外はすべてお任せしました。

伊藤:婆娑羅は、織田信長をはじめ、かつての“とっぽい人”たちのスタイル。これは若い頃に自分がスタイリングする際のテーマとして掲げていたものなので、思い入れもあるんです。

矢後:それで伊藤さんにお任せしたら、ぶつかり合う色や形、異質なものを乗りこなす騎手という、面白いコンセプトの衣装と馬が仕上がった。柔らかいもの、硬いものなど、全く違う素材がぶつかりあってできる美しさが素晴らしいと思いました。

伊藤:矢後さんは「婆娑羅」を「馬」と「皿」で表現したけれど(笑)。

矢後:「婆娑羅」という言葉には日本のDNA的なものがあると感じながらも、僕は文化人類学者でもないし、婆娑羅を背負って立つこともできない。だから、逆に馬と皿ぐらいのダジャレの方が、僕ならではの「婆娑羅」になるんじゃないかと。

伊藤:でも、その精神は信長のやんちゃな心を受け継いだ現代の若者という感じにちゃんと着地しているのよね。衣装はクオリティの高いラメのレース生地を使ったドレスにメタリックな甲冑の肩当てを付けて、帽子もハードなものにしました。でも、馬と皿はウレタン製にね。

矢後:馬や皿が偽物でインチキな感じの方がいいと思いました。

伊藤:真面目にインチキしているのね(笑)。

矢後:伊藤さんはラフやスケッチから、どんな風にイメージを膨らませるんですか?

伊藤:何しろ面白くするのは自分。人から与えられたラフやスケッチよりも絶対に面白いもので返そうと、いつも思っています。ただ、面白いということの基準は具体的ではなくて、瞬間的に面白いと感じるかどうかを大切にしています。かつての広告はある程度は自由につくることができたけれど、いまはコンテが契約書みたいになっている。だから、これをどのぐらい破れるかを考えますね。そういう時代だからこそ、いまはモノづくりに理解のあるクライアントやアートディレクター、「こっちのほうがいい」と主張できるフォトグラファーを開拓していかないといけないのかなと思います。

矢後:確かに広告業界の仕事のフローが「確認して、次に進む」ものだから、どうしても約束重視で進んでいきます。でも、おっしゃる通り、そこに逆らっていかないとよいものも生まれない。伊藤さんたちが取り組んできたことを、自分たちの代で絶やすのはよくないと思って頑張っています。

矢後直規展「婆娑羅」
2月22日(土)~3月8日(日)ラフォーレミュージアム原宿 11時~21時(入場は20時30分まで)

60歳を過ぎてようやく自由になれた

矢後:打ち合わせや撮影の後、僕は伊藤さんたちと飲みに行くのが楽しみなんです。よい仕事をするためには、そうやってダイレクトに話しながらイメージを共有することが大事ですから。

伊藤:昔はよく仕事の関係者と飲みに行ったけれど、最近は矢後さんぐらい(笑)。

矢後:伊藤さんはもう大御所だから、みんな誘いづらいんですよ。僕も最初はそうでしたから。

伊藤:私、大御所って言われるのが大嫌いなの。だって、ずっと仕事をしてきて、いまやっといろいろなことがわかって、むしろこれから仕事が面白くなっていくと思っているんです …

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