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REPORT

ものが溢れる時代の「価値」を問う 価格1円の雑誌

雑誌『広告』(博報堂)

博報堂が発刊している雑誌『広告』が、7月にリニューアル創刊した。新編集長は、クリエイティブチーム「monom(モノム)」を率いるクリエイティブディレクター/プロダクトデザイナーの小野直紀さん。今回、「価値」という特集に合わせて、小野さんが設定した雑誌の価格は「1円(税込)」だ。

当然のことながら、あっという間に話題になり、書店とアマゾンでは即完売した。「ものが溢れるこの時代に、本当に価値あるものとは何なのか、これから価値あるものをどう生み出していけばいいのか」ということを世の中に投げかけた『広告』は価格のみならず、もう一つ実験的な取り組みを進めている。それは、この雑誌のデザインを3人のデザイナーが協同で務めたことである。

そのうちの一人、上西祐理さんは電通のアートディレクターだ。そして、上西さんが声をかけたのは、グラフィックデザインを中心に活動する加瀬透さんと牧寿次郎さん。3人のデザイナーがフラットな関係としてチームを組み、雑誌『広告』そのものの企画から、エディトリアルデザインと造本を小野さんと共に考えていった。

7月24日に発売された雑誌『広告』(現在は、完売)。

雑誌のあり方やテーマも、デザインチームと協議

上西:小野さんに声をかけていただき、電通に所属する私が博報堂の雑誌に関わるというのは、なかなかパンチが効いていて面白いと思いました(笑)。でも、そう思うのは広告業界の中だけのこと。業界内だけでまとまるより、もっと違う視点を持つ人たちの意見が入ったほうがいいのではないかと思い、声をかけたのが加瀬さんと牧さんです。

2人とも普段からすごくよく物事を考えて制作するタイプのデザイナーですが、広告業界とは距離を置いている。そういう人が携わった方がこの雑誌は閉じたものにならない気がして。それぞれが得意領域を持ちながら、フラットに意見を交えながら進めることができたら、いいものができるんじゃないかという予感がありました。またそういう、全員考え、全員デザインする、チームで作る感じは新しいトライになるのではと思いました。

加瀬:3人各々で考え、それぞれデザインしていくというよりは、3人の意見を一つに統合していくような作業になりました。

小野:雑誌のあり方については編集スタッフだけではなく、デザインチームともかなりディスカッションしました。昨年夏頃から打ち合わせを始めて、最終的に『いいものをつくる、とは何か?』というテーマが決まり、その問いを思索する『視点のカタログ』にすると決まったのが昨年末。

加瀬:企画の土台部分は徹底的に話し合いをしましたね。僕が今回参加しようと思ったのは、自分が意見をフラットに出すことができて、企画からきちんと携わることができる機会になりそうだと思ったから。そういう意味で最初の時点から編集長と企画について深く話すことができたのはよかった。

牧:そうですね。最初の打ち合わせでは、広告業界の外からの意見を率直に話しました。そもそも広告代理店に対する不信感があり、それを差し置いても『広告』という誌名なのに広告とは関係のなさそうな内容と遊んだデザインの雑誌で、あまり良い印象ではなかった。

『広告』について調べてみると、創刊時は業界の動向や研究を発信したり、討論の場になることを目指していたようです。そこで、広告の影響力が下がってきた今こそ、もう一度しっかりと「広告」に向き合うことを提案しました。業界内の問題や新しい動きなどを改めて共有し議論できたら機能する雑誌になるんじゃないかなと。

上西:私はその意見を聞いて、深く考えさせられました。このタイトルがついている以上、そこはちゃんと考えざるを得ないなと。

小野:僕自身はこれまでにプロダクトや店舗などものづくりに関わってきたこともあり、広告が既存のものづくりにいい影響を及ぼすような存在になるといいなと考えていました。

加瀬:小野さんがやりたいことと、僕ら以外の意見も統合して、結果として小野さんが「いいものをつくる、とは何か?」というテーマを設定したのかなと。特集は広告という視点や社会との接合を考えて「価値」ということで落ち着きました。そこに至るまで、とにかく意見や視点をぶつけて、その合意点を探す旅が続きました。それは企画に限らずで、デザインも3人が100%納得することはないけれど、それぞれのOKラインが出るまで話し合いました。

牧:僕らはデザイン担当として参加しましたが、まずは雑誌自体のあり方から話し合い、そのあと小野さんが目指す内容をどんな形に落とし込めばうまく着地するかを考えました。

3人でフラットにデザインする

加瀬:僕は以前に雑誌の仕事をしていたこともあるのですが、そのときと違い、今回は雑誌の編集未経験の小野さんが初めて雑誌をつくる。そこでいわゆる雑誌のようにタイトルがあって、本文があって、図版があって…ということはどういうことなんだろうと考える必要があると感じて、この雑誌のエディトリアルのあり方を一から考えた方がいいと思いました。

上西:雑誌メディア自体がいま厳しいこともあるし、この3人で雑誌らしい雑誌をそのままつくることは意味がないですから …

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